Fate/WizarDragonknight
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
金色の瞳
重力の魔法を意識しながら、ハルトと紗夜は一階に戻って来た。
「まさか、蒼井晶がまた参加者になってたなんて……」
エスカレーターを下りながら、ハルトは毒づいた。
まだ彼女たちは動けないはず。
「あらあら? もう逃げ切ったとお考えですか? わたくしも随分と見くびられたものですわね」
その声に、空気が冷える。
そして。
「きゃああああっ!」
隣からつんざく、紗夜の悲鳴。
見れば、紗夜の足を、白い腕が掴んでいた。突然の障害物に紗夜は躓き、仰向けでもがいている。
「な、なんだこれ!?」
ハルトは急いで紗夜に駆け寄り、彼女の足に群がる腕を解く。
だが、腕はそれだけではない。一本、また一本。あたかも影の中から生えてきたような腕たちは、無抵抗な紗夜へ大挙を上げて迫って来る。
「何なんださっきから!」
『ディフェンド プリーズ』
ハルトは苛立ちながら、防御の魔法を発動。赤く、丸い魔法陣を、影の手は突破することが出来なかった。
「紗夜さん! 今のうちに!」
ハルトは紗夜を助け起こし、出口へ急ぐ。
だが。
「あらあらあらあら。折角参りましたのに、もうお帰りになりますの?」
いつの間に回り込んだのか。
フォーリナーが、その両手に銃を握り、出口の前に立ちはだかっていた。
左右それぞれ異なる長さの銃。古風な雰囲気を見せるそれぞれは、右は小銃、左は彼女の身長ほどの長さを持つ。
その左側の銃口を、フォーリナーは紗夜へ向ける。
「紗夜さん危ない!」
ハルトは紗夜を突き飛ばすと同時に、銃弾が右肩を貫く。
「っ!」
「きひっ!」
ハルトの右肩が痛みを訴え動きが鈍るが、手心を加えるフォーリナーではない。彼女は人間離れした速度で接近し、回転蹴りを放つ。
ハルトは痛む右腕で防御し、慣れない左手で指輪を付けた。
『ドライバーオン プリーズ』
腰に現れた、銀のベルト。ハルトがその両端のつまみを操作すると、内部に仕込まれたギミックがはたらき、手の形をしたバックルがその左右を反転させた。
『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』
ベルトから流れ出す音声。それに構うことなく、ハルトは左手を駆使して、つまんでいる指輪とホルスターのルビーの指輪を入れ替える。そのまま上手く中指に差し込んだハルトは、宣言した。
「変身!」
ルビーに付けられているカバーを下ろす。すると、ルビーの指輪は何かの顔を描き出す。ベルトのバックルに読み込ませると、より赤い輝きが閃いた。
『フレイム プリーズ』
指輪より飛び出す、炎の魔法陣。それはハルトの左側に並び、ゆっくりとその体を書き換えていく。
『ヒー ヒー ヒーヒーヒー』
魔法陣が通り抜けていくごとに、ハルトの姿が書き換えられていく。黒いローブの各所にルビーの装飾を施した姿。その顔は、左手の指輪と同じくルビーの仮面をしていた。
その姿こそ。
「そう……貴方がウィザード」
フォーリナーは銃口を自らの顎に当てながらほほ笑んだ。
「俺のこと……知ってるんだ?」
ハルトからウィザードへの変身を遂げ、さらに別の指輪を発動する。
『コネクト プリーズ』
魔法陣を二階につなげる。先ほどフォーリナーに叩き落とされたウィザーソードガンを回収し、身構えた。
だが、利き腕は使えない。左手で、ウィザードはウィザーソードガンを身構えた。
フォーリナーは「きひひ」と笑みを浮かべ、彼女の左右非対称の髪がふわりと揺れた。
「ええ。アサシン、バーサーカー、エンジェル、アヴェンジャー。あと、セイバーもでしたっけ? その最期にも立ち会ったんでしょう? ということは、次はわたくしが最期の時を迎えるのでしょうか?」
「やっぱり、君も参加者?」
「ええ。改めまして、わたくしはフォーリナー。今は、それだけでいいでしょう?」
フォーリナーは、その金色の左目でウィザードを見つめる。時計のような模様が入ったそれは、見るだけで固まってしまう。
そして。
「さあ……わたくしたちの戦争を始めましょう?」
フォーリナーの第一の挙動は、後退。
だが、ただの後退ではない。彼女の姿が影に消えると、同時に彼女の金色の眼の輝きも消える。
「……!?」
追いかけたくなる気持ちを抑え、ウィザードは一階の売り場を見渡す。
棚の影、柱の裏。加えてこの暗がり。隠れる場所ならばいくらでもある。
「どこに……ッ!」
ウィザードの全身より迸る火花。そして、体を走る痛み。
それは、フォーリナーがウィザードへ銃撃を成功させていることを意味していた。
地面を転がったウィザードは、もう一度周囲を見渡す。
「っ!」
殺意。
ウィザードはソードガンで防御する。すると丁度、ソードガンに重圧がのしかかった。
「痛っ……!」
その時、ウィザードの右肩に痛みが走る。
フォーリナーに開けられた右肩が、いまだに疼く。
動けなくなった間に、さらにフォーリナーの銃弾がウィザードを貫く。
正面にいる、と思えば、また背中に痛み。
「っ!」
ウィザードはソードガンを振り回しながらも、手応えは全くない。
「いない……? 一体どこに……!?」
それでも、また全身にフォーリナーの攻撃が積み重なっていく。火花を散らし、左ひざをつく。
「このっ!」
ウィザーソードガンをガンモードにして発射。
だが、銀の銃弾は、ただコンクリートの床を弾くだけだった。
「ぐっ!」
成果がない中で、ただウィザードの体にはフォーリナーの銃撃が続くだけ。
その時、ウィザードの目は捉えた。
目の前の暗がり。夕焼けの中だというのに、その濃度が即座に切り替わっていくのを。
「まさか……アイツがいるのは……!」
そして、さっきの彼女の能力であろう白い手の出所も。
影。
「だったら……」
『ライト プリーズ』
発動する光の魔法。
それは、暗がりに潜んでいるフォーリナーの姿をあぶりだした。
丁度、銃口をこちらに向けながら飛び掛かって来るフォーリナーが。
「遅い!」
「はあっ!」
ウィザードの蹴り。フォーリナーの腹にめり込んだそれは、彼女を壁まで飛ばし、詰まれていた資材を押しつぶした。
「間に合ってよかった……これでやっと一発か……」
肩で呼吸しながら、ウィザードは立つ。
「あらあらあら。女性に手を上げるなんて、酷くはありませんか?」
「そんなにか弱い女性じゃないでしょ、君は……」
舞い上がる埃を払いながら、フォーリナーは立ち上がる。だが、それ以上の反応を見せる前に、ウィザードは次の技を繰り出した。
『フレイム スラッシュストライク』
赤い斬撃。ウィザーソードガンより放たれたそれに対し、フォーリナーの回避運動は間に合わない。両腕を交差させて、彼女は炎の斬撃を防御した。
さらに、火力が残る銀の刃をもって、ウィザードはフォーリナーへ追撃する。
一見生身の少女。だが、その彼女へ振り下ろす銀の銃剣は、そのままフォーリナーの肩に食い込んだ。
「痛ッ」
「……っ!」
一瞬の迷い。
その後、ウィザードは銀のソードガンを振り抜く。真紅の炎の刃は、彼女の白い肌を切り裂いた。
「っ!」
フォーリナーの息を呑む音。
斬り飛ばされたフォーリナーの右手は宙を舞い、紗夜の前に落下する。
「ひっ!」
口を抑えた紗夜の悲鳴。彼女の目の前のフォーリナーの肉体の一部が、紗夜にありありとグロテスクな人体を見せつけていた。
「紗夜さん! 見ないで!」
「いけませんわ。余所見なんて」
紗夜へ駆けつけようとするウィザードの背後に、片手を失ったフォーリナーが張り付く。
痛みなど感じないのだろうか。そう思わせるほど機敏な動きが、ウィザードを蹴り飛ばす。
「嘘……でしょ!?」
足を引きずりながら、ウィザードは堪える。
即座に再びウィザーソードガンをガンモードに変更。
『キャモナシューティングシェイクハンド キャモナシューティングシェイクハンド』
再び手の形をしたオブジェを開き、そこにルビーの指輪を読み込ませた。
『フレイム シューティングストライク』
ウィザーソードガンの銃口に、炎の魔力が込められていく。
それはまさに、至近距離から銃口を向けてくるフォーリナーの銃を弾き上げ、彼女の胴体にゼロ距離で発射した。
そのままフォーリナーは動かないエスカレーターまで突き飛ばされる。エスカレーターの土台を砕いたフォーリナーの体は、そのまま動くことはなかった。
「や、やった……?」
気絶程度だろうが、これで時間が稼げる。それに、エスカレーターを壊したことで、二階の晶も降りてくるのには手こずるだろう。
ウィザードは紗夜の手を取った。
「今だ! 逃げるよ!」
「は、はい……!」
紗夜の手を引き、出口に急ごうとするウィザード。
だがその足元を、無数の銃弾が食い止めた。
「うっ!」
「全く。酷いですわ」
フォーリナーの言葉が、冷たくウィザードに突き刺さった。
右腕を失ったのにも関わらず、左手の銃をウィザードに向けていた。
「まずいっ!」
その斜線は、ウィザードよりも紗夜を狙っている。
ウィザードは急いで紗夜の前に割り込み、自らを盾にした。
「ぐっ!」
フォーリナーの銃弾が、よりにもよってウィザードの右肩に命中した。
またしても動かなくなる右腕。さらに続いた彼女の攻撃全てを全身に受け、ウィザードは紗夜を抱きかかえたまま地面に投げ出された。
そして。
「さあ、おいでませ! 刻々帝」
フォーリナーの声が暗がりに響く。
見れば、彼女の背後に巨大な時計盤が出現していた。フォーリナーの背丈の倍はある直径の時計盤。彼女の目と同様、ローマ数字が刻まれている時計盤は、四時を指している。
「四の弾」
フォーリナーが唱える、その名前。
四時の文字盤より、赤黒いエネルギーが溢れ出し、その銃に注がれていく。
「きひっ!」
にやりと笑みを浮かべたままのフォーリナーは、そのまま銃を自らのこめかみに当て、躊躇いなく引き金を引いた。
発砲音。
すると、フォーリナーの体に新たな影響が齎される。ウィザードが与えたダメージが、逆再生のように治癒されていくのだ。それは、失った右腕さえも例外ではない。紗夜の前で打ち捨てられていた右腕は跳ね上がり、落ちた軌道をなぞるようにフォーリナーの体へ戻っていく。
グチャッと耳を覆いたくなるような音とともに、腕が体にくっついた。
「ひっ……」
そのグロテスクな音に、背後の紗夜が悲鳴を上げた。
「……嘘でしょ? 何て回復能力……!」
「きひひっ! 違いますよ。時間を戻しただけですわ。一の弾」
次に時計が指すのは、一時。
同じく自らへ打ち込んだ銃弾。
「きひひっ!」
そして発動したのは、彼女の動きの変化。
正面、エスカレーターの傍にいたはずの彼女は、すでにウィザードの真横にいたのだ。
「速……うっ!」
彼女の砲撃に、大きく体を吹き飛ばされるウィザード。いくつかの棚を倒しながらも、踏ん張り止まる。
「紗夜さん!」
フォーリナーと紗夜の距離が近すぎる。
ウィザードは大急ぎで駆け出した。
だが。
「七の弾」
紗夜へ飛び上がったウィザードは、自らの体の変化に気付くことはなかった。
ウィザードの体が、完全に静止する。
きっと紗夜は、それがウィザードのポートレートなのかと思うことだろう。
そして、動かない敵へ、攻撃をしない理由はない。
胴体、手足。それぞれに銃弾を撃ち込んだ後に再び時が動く。
「……があっ!」
完全静止した外側からの攻撃。
ウィザードは耐えることが出来ず、変身解除したままスーパーの外に投げ出されてしまった。
ページ上へ戻る