イベリス
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第四十六話 夏服を着てその十一
速水の顔が脳裏に思い浮かんだ、そのミステリアスな雰囲気に満ちた整った顔を思い浮かべつつ部長に話した。
「そうだったら面白い人知ってます」
「そうなんだ」
「はい、ただそれはないですね」
咲は今度は笑って述べた。
「やっぱり」
「まあ小山さんの思う通りだろうね」
「そうした人は身近にいないですか」
「やっぱりね」
「そうした人達はやっぱり政府の方にいて」
「表向きは閑職だったりして」
その実はというのだ。
「人知れず動いてるものだろうね」
「だから身近にはいないですね」
「そうだろうね、ただ擦れ違うことはね」
「ありますか」
「東京は人が多くて常に誰かと擦れ違っているから」
そうした街だからだというのだ。
「それでね」
「そうした人達の誰かとですか」
「擦れ違っていたりするかも知れないよ」
「駅とか道で」
「そうそう、東京の何処かでね」
「東京はスパイも多いって聞きましたけれど」
「世界各国のスパイが集まってるって言うね」
部長はこの話にも乗ってきた。
「それと共にだよ」
「魔を警戒して結界も多くて」
「魔を退治する人達もね」
「いてですね」
「擦れ違ってるかもね」
「そう思うと何かワクワクしますね」
咲は部長の言葉に笑って応えた。
「本当に創作みたいで」
「そうだよね」
「そう考えると東京にいるのが余計に楽しいですね」
「この街は色々あるからね」
「そうした意味でも」
「僕もそう思うよ」
部長は今度は笑顔で応えた。
「東京ってオカルトでも色々あるよね」
「本当にそうですね」
「だから余計に面白いね」
「あちこちに怪談とか都市伝説があって」
「そしてそうした人達もいるかも知れない」
「何か余計に東京が好きになりました」
「小山さんはそうなったんだね」
「はい、これから梅雨で鬱陶しいですが」
そうした季節になるが、というのだ。
「けれどです」
「今のお話でだね」
「そうなりました、じゃあこれからも出来るだけこの街にいます」
東京にというのだ。
「そして東京を離れても」
「それでもだね」
「この街を忘れない様にします」
「そうしたらいいよ、ここは小山さんにとっても僕にとっても故郷だし」
部長は咲に笑顔で応えた。
「忘れるよりも覚えておいた方がいいよ」
「そうなんですね」
「うん、そう思うよ」
「じゃあそうしていきます」
「そういうことでね」
部長は今も笑顔だった、そうしてだった。
漫研で漫画を読みつつその話に興じていった、咲はこの日も幸せに十代の時間を過ごして満喫していた。
第四十六話 完
2022・1・8
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