ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね(お試し版)
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十話「後悔は先に立たない」
「さて、請け負っておいてなんですが私もモンスターの弟子をとるのは初めてですので――」
翌朝、アバンに呼ばれて行ってみると、待っていたのは木の枝を構えた当人だった。
「昨晩はただ会話をしただけで、メラゴースト君が何をどれだけできて何ができないかというところまでは知ることができませんでしたからね」
つまり、俺の実力を図ろうとかそう言うことなのだろうが。
(どうしろと?)
あばれうしどりとは訳が違う。木の枝と武器こそ思いっきり手加減されているが、その手加減された一撃でこっちはあっさり死ねる自信がある。
(とはいえ、何か見込みのあるところ見せないとなぁ)
さっそく弟子になったことを後悔しだした俺だが、新しい呪文とかを教えてもらうためにもこう、そんじょそこらのメラゴーストとは違うってところを見せなきゃ拙いと思うのだ。
(俺にできることと言うと、メラの呪文と……えーと、あれ?)
考えてみるが、他に思いつかない。しいて言うなら分裂だが、今のところ狙ってできたモノではなく偶然の産物だ。
(アバンの攻撃をぴょいんと避けて分裂からのカウンターを狙う? 無理無理)
相手は原作主人公の剣の師匠であり、魔王すら倒している男なのだ。俺が躱せるような太刀筋の筈がない。
(どうにかしてメラの呪文を命中させるしかない、かぁ)
離れていても呪文なら相手に届きはするだろうが、俺の記憶が確かならこの勇者、呪文すら斬撃で斬り裂いた気がする上、斬撃を飛ばす技も持っていたような気がする。
(何か、何かないか……あ)
打開策を求めて周囲を見回せば、目についたのは石と、昨晩たき火をした場所でハンパに燃え残った薪。
「おや、何か思いついたようですねぇ。オーケー、見せてくださいその思い付きとやらを」
あくまで見極めと言うことでアバン、いや師匠は邪魔をする気はないらしい。
(ならっ)
俺は石を拾い上げると師匠目掛けて放り投げる。
(うっ腕が短くて投げづらい)
まるで倒れこむような無様な投石フォームだが贅沢は言っていられない。
「おっと」
「メラ」
あっさり石を躱されるもそれは想定内、投石を囮にメラの呪文で火の玉を放ち。
「なるほど、ですが甘い」
火の玉は案の定木の枝に斬り裂かれる。
(これもまだ想定内)
普通のメラゴーストであれば、この時点で詰みだ。二発目のメラを放てる精神力なんて存在しないのだから。
(それでも何とかしようと考えたとしたならば――)
俺はそのままたき火跡に向かい、拾い上げた薪を握りしめる。
「ほほう、まだ諦めませんか。ナイスガッツです、ですが」
メラゴーストの腕力では物理攻撃は向いていないとでも言うのだろう、解かっている。
「では、そろそろ、こちらもうごいちゃいます、よッ」
「ッ」
早い。わかってはいたことだが師匠は早かった。地を蹴って前に飛び出したなどと言語で表現する暇がないほどに早く。とっさにバックジャンプしたつもりが腕は痺れ持っていた筈の薪はどこかに消え。
「メラ」
俺の武器を弾き飛ばし木の枝を振り切った師匠に俺はほぼゼロ距離で二発目のメラを放つ。
(物理攻撃は最初からフェイント。俺がレベルアップして二発目を撃てると知らなければ)
虚をつける。あの短い間に俺に思いついたのはこれが精いっぱいで。
「いやぁ、残念でしたね」
にっこり笑う師匠を見て俺は遅ればせながら思い出していた。この人は魔王ハドラーの爆裂呪文を原作でも素手で握り潰していたということを。俺のお粗末な攻撃呪文がどうなったかなんて言うまでもないだろう。
「しかし、普通のメラゴーストは二発もメラは撃てない筈ですし。フェイントを入れてくるなど、攻撃もよく考えられていましたよ」
師匠のフォローにとりあえず頷きつつも思うのは、現実は甘くないということ。
(俺にしては頑張ったつもりなんだけど)
実力差を考えれば当たり前の結果なのに酷く凹んだ俺は、よほど気落ちしているように見えたのか。
「あー、まぁ、メラゴーストにしてはよくやったんじゃねぇか?」
俺を快く思っていない筈の兄弟子にまで慰められ。
(そう、だよな)
幾分か気が軽くなって素直にポップに頭を下げたのだった。
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