高潔な騎士
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第一章
高潔な騎士
騎士アイヴァンホーは高名な騎士である、主君である獅子心王リチャード一世に忠実に仕えるだけでなく常に騎士道精神を尊び無道は誰にも行わない。
その為誰もが彼を称賛した、しかしだった。
「彼は敬虔なキリスト教徒だ」
「だから異教徒には厳しいのではないか」
「流石にな」
「異端にもそうだろう」
そう思われていた、それでだった。
ユダヤ商人の娘であるレベッカは彼の高潔さと青い澄んだ目で彫のある面長の整った顔、見事な金髪、逞しい長身という整った容姿に愛情を抱いていた。しかし親しい者にこう漏らしていた。見れば栗色の長い髪の毛に緑の瞳で楚々とした外見の小柄な美女だ。
「私はユダヤ人、それなら」
「あの人は信仰心も強いから」
「それでだというのね」
「貴女には」
「冷たい筈よ、愛してくれるどころか」
それどころかというのだ。
「助けてくれることすらもね」
「ないというのね」
「あの人は」
「貴女が異教徒だから」
「それはないわ」
決してというのだ。
「だから私はただあの人を見ているだけでいいの」
「そうなのね」
「ユダヤ人だから」
「それでなのね」
「もうそれで充分よ」
こう自分に言い聞かせていた、そうしてだった。
ただ彼を遠くから見ているだけだった、しかし些細なことからだった。
彼女は魔女として訴えられた、これには彼女の同胞であるユダヤ人達はただ項垂れることしか出来なかった。
「よくあることだ」
「わし等にとってはいつもだ」
「わし等はキリスト教徒じゃない」
「キリスト教徒でないなら魔女と同じだ」
「それでは何かあったら訴えられる」
「そして魔女だと訴えられたらだ」
そうなってしまえばというのだ。
「もう終わりだ」
「魔女の裁判なんて有罪になる為のものだ」
「ましてわし等だと尚更だ」
「どんなに金を積んでも火炙りだ」
「そうなるしかない」
こう言って諦めていた、しかし。
そんな中でだ、アイヴァンホーだけは違っていた。
彼女を見てだ、周りに言った。
「彼女は魔女ではありません」
「えっ、ユダヤ人ですよ」
「あの娘はユダヤ人ですよ」
「それでもそう言われるんですか」
「魔女ではないと」
「ユダヤ人だから魔女だと誰が決めたのか」
アイヴァンホーは自分の言葉に驚く周りにさらに言った。
「一体」
「それはその」
「そう言われますと」
「聖書にも書いてないですし」
「我が国の法にもありません」
「私にはこれがある」
ここでだ、アイヴァンホーは十字架を出した。そこにはキリストもいる。
「魔女は十字架を恐れる、試しに彼女の首にかければいい」
「その十字架をですか」
「あの娘の首にかけるのですか」
「そうして魔女かどうか確かめるのですか」
「魔女は悪魔と契約した」
そうして魔女になったというのだ。
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