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展覧会の絵

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第三話 いかさま師その三

「音楽も教会から流れてね」
「じゃあ歴史も?」
「神様を勉強するものなの」
「欧州はまずはキリスト教があってだから」
 それ故にだというのだ。
「全ての学問はそこからはじまるんだ。神学からね」
「神学ねえ。そんなに大事なの」
「お坊さんになるだけだと思ってたのに」
「ちょっと違うのね」
「欧州ってそうなのね」
「そう。全てはね」
 違うというのだった。日本と欧州では。
 十字は欧州の視点から語っていく。そこが女の子達と違っていた。
 そしてその違いからだ。彼は話すのだった。
「哲学も文学も法学も。全ては」
「神学からはじまるの」
「そうなるの」
「神の御教えが心であり背骨なんだ」
 欧州、キリスト教世界での話だ。つまり欧州はキリスト教なくして成り立つものではないというのだ。十字はこのことを淡々であるが女の子達に強く語る。
 そしてだ。また言うのだった。
「だから僕はその心と背骨を勉強しているんだ」
「ううん、何か凄く深い話になってきたわよね」
「心とか背骨って」
「けれど。神様の教えが深いってのはね」
「何となくわかった?」
「そうよね」
 女の子達は十字の話をここまで聞いてだった。
 そのうえで顔を見合わせてだ。こうして話をするのだった。
「じゃあまあとにかく?」
「佐藤君は将来神父さんになるの?」
「それで教会で御祈りするの?」
「もうなっているよ」
 ただし自分がどの階級にいるのかは語らなかった。
「僕はね。神の僕にね」
「だから今教会にいるのかしら」
「そうだよ」
 その通りだと答える十字だった。そしてだ。
 女の子達に今度はだ。こんなことを話したのだった。
「そして今僕は美術部にいさせてもらってるけれど」
「あっ、また絵描いてるのよね」
「そうだったよね」
「そうだよ。今日も描くよ」
 そうするとだ。表情のないまま語るのだった。
「あの絵をね」
「それでどんな絵を描いてるの?」
 女の子の一人が彼に尋ねてきた。今具体的にどんな絵を描いてるかとだ。
「神様の絵?それなの?」
「ううん。別の絵だよ」
 それは違うとだ。十字は首を微かに横に振って答えた。
「真実を描いた絵だよ」
「真実?」
「真実って?」
「この世の真実。それをね」
 描いた絵だというのだ。彼が今描いているのは。
 そうした話を女の子達とした。それがその日だった。
 彼はよく聖書を読んでいた。しかしそれだけではなかった。時折校内を歩き回ったりしていた。それはこの日の昼食時間でも同じでだ。彼は質素な昼食、パンと野菜ジュースの弁当のものを食べてからだ。
 そのうえで校内を歩いていた。普通科の二年の校舎の中を。その中であるクラスを覗いた。そこではだ。
 一組の男女が二つの机を使って向かい合って座って弁当を食べていた。そしてだ。
 女の子の方がだ。こんなことを言っていた。
「だから。それも食べないと駄目よ」
「トマトかよ」
「そう、トマトは身体にいいの」
 だからだとだ。女の子の方が言っていた。
「だから食べないと」
「俺トマト嫌いなんだよ」
 しかし男の方はあからさまに嫌そうな顔で言い返していた。十字はクラスの前の扉からその痴話喧嘩めいたやり取りと見ることになった。
 女の子の方は少し長めの黒髪を後ろで束ねている。目は少し縦長気味でどんぐりに似た形をしている。顔立ちはやや幼さが残る感じだがそれと共に気の強さもある。唇が小さく引き締まっている。鼻も高い。 
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