展覧会の絵
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第二話 吸血鬼その九
貝殻の上に裸の美女がいる。そして周囲がその美女を祝福している。
誰もが知っているその絵を見てだ。猛が言った。
「あっ、この絵は僕も知ってるよ」
「そうだね。この絵は」
「ヴィーナスの誕生だよね」
それだと言う猛だった。
「ボッティチェリだったかな」
「その通りだよ。美の女神の誕生の瞬間を描いた絵だよ」
「これも貴方が描いたのね」
「うん」
その通りだとだ。十字は雅の問いに小さく頷いて答えた。
「模写させてもらったよ」
「本当に色々な絵が描けるのね」
「ただ真似をしているだけだよ、それぞれの画家のね」
「それでも完璧に再現してるじゃない」
そのことにだ。素直に感嘆の言葉を述べる雅だった。
そしてそのうえでだ。また十字に言うのだった。
「天才と言っていいわよ」
「天才ね」
「そう、天才だと思うわ」
「有り難う。それでだけれど」
「この絵をね」
「そう。美が生まれた瞬間だよ」
美の女神、それがだというのだ。
そしてだ。その美についての話をする十字だった。
「それは外見だけじゃなくてね」
「心も、なのね」
「人の心にこそ美があるから」
「それでこの絵を描いたの?」
「そう。人の心の美」
それもまた美でありそれの誕生もまただ。この絵にあるというのだ。
十字はその美しい女神。一糸まとわぬその姿を二人と共に見つつだ。その美について述べていくのだった。
「それはこの世で最も美しいものだから」
「ううん、何かさっきのムンクの絵は観ていて不安になったけれど」
猛は女神を見つつ十字に述べる。
「この絵は観ているとね」
「美しさを感じるね」
「本当にね。そんな絵だね」
「だから最後に観てもらったんだ」
その考えからだとだ。十字は言った。
「そういうことだったんだ」
「心の美、ね」
「誰かを想い、愛して」
具体的な美をだ。十字は二人に説明した。
「そしてその人を護ろう、救おうと思う心がね」
「それが心の美なんだ」
「具体的にはそうだよ。そのことを忘れないでね」
「うん、じゃあ」
「そうさせてもらうわね」
猛だけでなくだ。雅も頷いた。猛に比べて十字に対して好意的には見えない彼女もだ。そうしたのである。そしてそのうえでまた言う彼女だった。
「なら。私達はこれでね」
「またね。確か名前は」
「佐藤十字」
この名前を。二人に話したのである。
「宜しくね」
「うん、それじゃあね」
「また来させてもらうわ」
「この画廊は何時でも誰でも来ていいよ」
そうしていいと述べる十字だった。
「お金はいらないし」
「完全な無料なんだ」
「誰にでも観てもらう為の場所だから」
それ故にだというのだ。
「だからね」
「それでなんだ」
「そう。だからまた来てね」
そうしてくれと述べてだ。十字は二人を見送った。そしてそのうえで教会の礼拝堂に赴き祈りを捧げるのだった。
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