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仮面ライダーAP

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第15話 冒涜的な変身

 type-αはマルチシューターから発射する弾を、対象の拘束に適した「ワイヤーアタッチメント」に切り替え、ゴールドフィロキセラの全身にワイヤーを張り巡らせていく。さらに、電流により行動を阻害する「スタンアタッチメント」に換装し、怪人の足止めに専念していた。

「……俺の仕事も皆の仕事も、そろそろ終わりにしたいんだよねぇッ!」
「ぐぅッ……!?」

 さらに。敢えて一度、スーツの機能をダウンさせた後。
 彼は「再起動」に伴い高まって行くエネルギーを片脚1本にのみ凝縮させ、強烈な回し蹴りを叩き込むのだった。type-αの全動力をその一撃にのみ集中させて相手を討つ、「システム・オーバーホール」。その必殺技が、ゴールドフィロキセラの胸板に炸裂したのである。

「この時代に傷付けられた人々に……俺達はこれからも、手を伸ばして行く。お前達にも、手を伸ばす! だから今、負けるわけには行かないんだ……セイヤァーッ!」
「ぐはァッ……!? あなた達のような者が、今になって何をッ……!」

 その攻勢に乗じたtype-000は、スロットにセットされたアイテムの画面をタップし、足裏の噴射機を利用して急上昇していく。そこから「タトバキック」の如く、急速に降下するような飛び蹴りを放っていた。
 彼の一撃を浴びたゴールドフィロキセラは一瞬だけ片膝を付くが、己の自己再生能力をフル稼働させ、強引に立ち上がろうとする。だが、その時にはすでにボクサーが「必殺技」の間合いに入り込んでいた。

「発端を辿れば、お前達も救われなきゃならねぇシェードの被害者だ。……それでもノバシェードを名乗って牙を剥いちまった以上、俺達はお前を人間として法で裁き、ムショにブチ込むしかねぇ」
「……!」
「だからこそ、せめて人間同士として手を差し伸べるのさ。改造人間は人間じゃない? 知らねぇよそんなこと。お前らはどこまで行っても人間だ。同じ人間なら、化物としてブッ殺すなんて真似は絶対にしねぇし、させねぇ。それが刑事(デカ)ってモンだからなァッ!」

 相手を怪物として抹殺するのではなく、人間として叩きのめすため。悪だからと滅ぼすのではなく、同じ人間として扱い、罪を償わせるため。
 ボクサーはその巨大な右腕に銀色のエネルギーを凝縮させ、ゴールドフィロキセラの顔面に強烈なストレートパンチを打ち込んで行く。

「ごぉあ……あぁあぁあッ!」

 「シュリンプストレート」。その必殺の拳打を喰らったゴールドフィロキセラは激しく吹き飛び、砕けた生体装甲の破片を撒き散らしながら、地面の上を転がって行く。

「や、やった……! 義男さん、皆も……すごいっ!」

 次に彼が立ち上がろうと上体を起こした時には、すでにその外観は「明智天峯」という「人間」の姿に戻されていた。
 3人の刑事達が全身全霊を込めて放った一斉攻撃により、ゴールドフィロキセラという怪人はついに粉砕されたのである。その瞬間を目撃したライダーマンGは、歓喜に拳を震わせていた。

「まさか、こんなまさか……! 類稀な自己再生能力を有する私のボディが、人間の装備で……!」
「確かにその能力は厄介だったよ。……長期戦に持ち込まれていたら、俺達に勝ち目はなかったかもねぇ」
「薬師寺と久我峰……そして遥花が、勝たせてくれたのさ。改造人間だけが、『仮面ライダー』じゃねえってこった」
「さぁ、大人しく投降してくれ。お前さえ降参してくれれば、この戦いもようやく終わるんだ」

 ボクサー達もすでに力を出し尽くしてはいたが、天峯の消耗はそれ以上のようだった。自己再生能力が追いつかないほどの強力な攻撃を続けざまに浴びせられ、彼はもはや満身創痍となっている。都市迷彩の戦闘服も、ボロボロに黒ずんでいた。

「……投降? ふっ、笑わせてくれますね。今さら私達があなた方の軍門に降ったところで、わざわざ生かす理由などないくせに」
「なんだと……?」
「生憎ですが、私は禍継や蛮児ほど潔くはなれません。それがどれほど醜く、惨めで、誰の同情も得られない悪路であろうとも。そこにしか生きる道がないのであれば、私は進み行くのです」

 だが、それでも彼は負けを認めることなく、薄ら笑いを浮かべている。
 そう。武田禍継や上杉蛮児がそうだったように。彼にもまだ、「奥の手」があるのだ。

「……!」
「南義男……と言いましたか。あなたの一撃、大変よく効きましたよ。おかげさまで、私の自己再生機能にも異常が出てしまったようです。もう私も、前ほどタフではいられませんね」

 傷付いた身体を引きずり、ゆらりと立ち上がる彼の腰には。すでに、これまで猛威を奮って来た旧シェード製のものと同じ「変身ベルト」が装着されていたのである。
 しかもそこに装填されているボトルからは、ニコラシカやギムレットのものとは比べ物にならないほどの禍々しさが漂っていた。ボクサーをはじめとするライダー達が、無意識のうちに身構えてしまうほどに。

「ですが、構いません。傷を癒す力など、『これ』を使うと決めた以上はもう必要ないのですから」
「明智天峯! それ以上動くな――」

 これから起きること。それを本能的に察したtype-αは我に帰ると、天峯の行為を阻止するべくマルチシューターの銃口を向ける。

 だが。その時にはすでに、ベルトのレバーは倒されていた。賽はもう、投げられていたのである。

「――変身」

 一瞬だった。

「ごぁッ……!?」
「ぐぅあッ……!」

 天峯のベルトが眩い輝きを放ち、彼の全身を包み込んだかと思うと。その光の膜を突き破るように飛び出して来た「影」が、目にも留まらぬ疾さで拳を振るっていたのである。
 一体、何が起きたというのか。それすらも分からないまま、type-αとtype-000は瞬く間に拳を顔面に打ち込まれ、意識を刈り取られていた。

「がぁッ……! は、遥花……に、逃げろッ……!」

 辛うじて頭部への初撃を受け止めたボクサーも。間髪入れずに飛んで来た2撃目の拳には反応が間に合わず、鳩尾に痛烈な打撃を受けてしまう。
 それでも遠のいて行く意識の中で、彼はライダーマンGだけでも逃がそうと。気絶するその瞬間まで、自分達を打ちのめした「影」にしがみついていた。

「よ、義男さんッ! 皆ッ……!」

 仲間達を次々と打ち倒され、再び自分独りとなってしまったライダーマンGは、その光景に戦慄を覚えていた。そんな彼女の目の前を覆っていた光がようやく収まった時、ボクサー達を瞬く間に打倒した「影」の全貌が明らかとなる。

「……!」
「これでよく分かったでしょう? 番場遥花」

 ――悪と正義の融合(マリアージュ)
 その象徴たる仮面ライダーGの配色は、「悪」の黒と「正義」の赤に2分されていた。
 明智天峯が纏っている外骨格は、そんな彼の外観を忠実に再現しているのだが――黒と赤の色だけが、真逆になっているのだ。まるで、仮面ライダーGという存在の中にある善と悪が、反転してしまったかのように。

 それは、かつてこの世界を救った英雄の意匠を、根底から冒涜しているかのような姿であった。赤い鎧を纏う天峯はさらに、外骨格の上から漆黒のマントを羽織っている。

「殺し合わずして……私達の戦いを、終えることなど出来ないのですよ」
「……明智、天峯ッ!」

 人類の希望たる仮面ライダーGに極めて近しい存在が、本家とは真逆の道へと突き進んでいるのだと、その姿で語るかのように。明智天峯が変身する「仮面ライダーマティーニ」は、不気味な黒いマントを悠然と靡かせていた。
 
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