ウルトラマンカイナ
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特別編 ウルトラカイナファイト part7
前書き
◇今話の登場ウルトラマン
◇荒石磨貴/ウルトラマンジェム
1年前、怪獣や異星人の脅威から地球を救った若きウルトラマンと、その依代になった人物。岩のような甲殻と茶色の差し色を持つシルバー族のウルトラ戦士であり、必殺技は両腕を開いた後、腕を十字に組んで放つジェムナイト光線。現在の磨貴は高校生であり、年齢は17歳。
※原案はラノベ野郎先生。
「やべぇ、ガチでやべぇじゃん! もう怪獣、すぐそこまで来てるって!」
「早く逃げないと、どんな攻撃で殺されるが分かったもんじゃねーよ!」
「おいお前ら、迂闊に動き回るなって言ってるだろうが! 早く体育館に――!」
「体育館に逃げ込めば何だって言うんすか! 死んだらオシマイなんすよ、先生ッ!」
要達が通っていた大学と同様に、都内の高校もテンペラー軍団の襲来に騒然となっていた。授業どころではなくなった校内はパニックに陥り、生徒達は体育館に避難させようとする教師陣の呼び掛けにも耳を貸さず、我先にと学校から逃げ出している。
「お前ら落ち着け! 先生の言う通り、体育館に逃げるんだよ! 危ないのは怪獣だけじゃないんだ、外に出たらガラス片や石飛礫だって飛んで来るんだぞ!」
「そうだ! 下手に飛び出す方が危険なんだぞ、慌てるなお前らッ!」
だが、その非常時の只中であっても冷静さを失わず、教師と協力して学内への避難を呼び掛けている生徒もいた。相撲部のエース、大力力也と――宝石店の息子にして、元不良でもある荒石磨貴だ。
「お、大力、荒石まで……」
「でっ、でもよぉ……」
「でももクソもあるかッ! お前らが死んで悲しむのは、親やセンコーだけじゃねぇーんだぞッ!」
かつては校内きっての「札付き」だった彼ら2人は、今や生徒達だけでなく、教師陣からも一目置かれる「優等生」となっていた。そんな2人の言葉に、外へ飛び出そうとしていた生徒達にも「迷い」が生まれ始めている。
「磨貴、ここは俺がどうにか収めるから……お前は早く、『兄貴達』のところに行ってやれ!」
「力也……!」
「もう分かってるはずだろ? お前にしか出来ない、お前のやるべきことはよ!」
「……っ」
ふと、力也が投げかけて来たその言葉に、磨貴は拳を静かに震わせていた。この校内で、力也だけは知っているのだ。
荒石磨貴は1年前、第6の新人ウルトラマンとして地球を救った、知られざるヒーローだったのだということを。
ウルトラマンとしての責任に苦しみながらも、持ち前の情の厚さを頼りに、1年間もの地球防衛をやり抜いたのだということを。
力也自身も、そんな彼の戦いを親友として支え続けていたからこそ。不良という立場から磨貴と共に脱却し、優等生と見られるほどにまで成長出来たのである。
ウルトラマンという「正義のヒーロー」としての役割を、命懸けで完遂した経験が。磨貴を更生させ、力也を正しく導いていたのだ。
そして今、テンペラー軍団の襲来によって地球は最大の危機を迎えている。そんな中で力也に出来ることと言えば、混乱している生徒達を説得することくらいだ。
しかし、磨貴は違う。空に輝く人工のウルトラサイン――「イカロスの太陽」による産物を目にした磨貴には、それ以上の「大役」があるのだ。再びウルトラマンとして立ち上がり、この地球を救うという「大役」が。
「あの意味わかんねー象形文字みたいなヤツが……SOSのサインなんだろ。お前の助けを、ウルトラマンカイナが必要としてるんだろ!? だったら迷うな! 行けよ、磨貴ッ!」
「……分かった! ここは頼むぜ、力也ッ!」
ウルトラマンとしての自分を見てきた、力也の思いを汲み。磨貴は意を決してこの場を離れると、校舎の屋上を目指して全速力で駆け上がって行く。
不良時代の溜まり場だった、人気のない屋上。もう2度と来ることはないと思っていたその場所こそが、「絶好のスポット」なのだ。
「……リッパー師匠、ルプス師匠。こんな札付きの俺ですが……この戦いだけは、是が非でも勝って見せます。だから見ていてください、光の国から!」
1年前。ウルトラマンとしてはあまりに未熟だった磨貴を、徹底的に鍛え上げた2人の師匠――ウルトラマンリッパーと、ウルトラマンルプス。
手の掛かる不出来な弟子なりに、その2人への勝利を捧げるべく。彼は変身アイテムである指輪「コネクトリング」を、左手の中指に嵌めると。その台座に変身の鍵となる宝石「リリースジェム」を装填し、左の拳を勢いよく天に突き上げるのだった。
「――ジェムゥゥウッ!」
リリースジェムを台座に差し込まれた、コネクトリング。その指輪を中心に広がって行く巨大な光が、磨貴を飲み込み――銀色の巨人と化して行く。
固く握られた拳を突き上げ、「ぐんぐん」と現れたその巨人が、学校の前に着地したのは、それから間もなくのことであった。
筋骨逞しいボディライン。肩や足を保護している、岩のような甲殻。初代ウルトラマンを想起させる模様に、茶色の差し色。両手の甲に埋め込まれた、四角の宝石。
質実剛健。その言葉が相応しい、堅牢なるシルバー族のウルトラ戦士。それが、カイナを筆頭とする「新人ウルトラマン」最後の1人――「ウルトラマンジェム」なのだ。
「おい、見ろよ……! あれ、ジェムじゃないか!? ウルトラマンジェム!」
「本当だ……ウルトラマンジェムだ! ちょっ、写真写真! これ絶対バズるって!」
「お前らそんな場合かッ!? さっさと避難しろって言ってんだろがッ!」
1年前、ジェムは何度もこの学校を怪獣達の脅威から救ってきたのだ。そんなウルトラマンとの思いがけない「再会」に、生徒達は避難すら忘れて歓声を上げている。
中には、SNSで拡散しようと写真を撮り始める者までいた。そんな彼らを嗜めながら、力也はジェムの巨躯を仰ぎ、深く頷いている。
(行ってこい! あの怪獣共に、正義の突っ張りかましてやれ!)
(おう……! 任せときな!)
言葉を交わすまでもない。ジェムと力也は無言のまま頷き合い、それぞれの「最善」を尽くすべく動き始めて行く。
力也は、生徒達の避難誘導。磨貴ことジェムは、テンペラー軍団の打倒。それぞれの「責務」を、果たすために。
『この気配は……アーク兄さんだな! いや、あの人だけじゃない! エナジー兄さんにザイン兄さん……アキレス兄さんも動いてるのか!? ちくしょう、すっかり出遅れちまったぜ! 全力で飛ばすかッ……タアァーッ!』
年功序列という意味では自分が最も「下」だというのに、「先輩達」よりも変身が遅れていた。その点が気になって仕方がないのか、ジェムは焦った様子で地を蹴り、両手を広げて飛び上がって行く。
全身に装着されている甲殻の重さもあり、マッハ1までしか出せないジェムは、それでも全速力で「先輩達」の元へと飛び去って行くのだった。
「……勝てよ、絶対。ウルトラマンジェム!」
そんな親友の旅立ちを見送り、力也は唇を強く噛み締める。必ず生きて、帰って来い。そう、強く祈りながら。
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