ユア・ブラッド・マイン 〜空と結晶と緋色の鎖〜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第12話『契約』
「私と、契約しましょう」
少し震えた声で、立奈が言い放つ。その単語の持つ意味は多くはない。特にこの場合だと一つしかないだろう。
つまり、OI能力者と、魔女として。兵器となるための契約を。
確かに、条件は揃っている。玲人は覚醒済みのOI能力者であるし、立奈もまた魔女である。契約時に必要な契約器には、魔鉄製であるリアクトカメラを使えばいいだろう。
しかし……
「ちゃんと意味を理解して言ってるのか?」
確かに、鉄脈術さえ発動していれば屍武者程度は玲人の敵ではないだろう。だが、そう単純に終わる話ではない。
そもそも、成功するかも分からければ、事が済んだからと言って簡単に解除できるようなものではないのだ。
そういった事実を理解しているのかと、玲人は立奈に問いかける。
「先輩こそわかってますよね。他に方法はないことくらい」
しかし、立奈は逆に問いかけてくる。他の方法とはつまり、玲人と立奈の2人が無事で事態を打破する方法のことだろう。
玲人が時間を稼げば、確かに立奈は燕の元に辿り着くことができるだろう。だがそれは、玲人が犠牲になることを意味する。
立奈にはそれが許容できないのだろう。お互いに助かる方法となると……確かに他に方法はない。
「上手くいくとは限らないぞ」
「大丈夫です」
「……根拠は」
「勘です」
「保証は」
「ありません」
「自信は」
「あります」
「……わかった。鬼でも蛇でも、使えるもんは使ってやる」
立奈の持つリアクトカメラに触れる。いつも使っている時とは違う、カメラを通して立奈と繋がるような感覚が湧き起こる。
「掘削開始、ユア・ブラッド・マイン」
「掘削許可、マイ・ブラッド・ユアーズ」
それは、2人を繋ぐための言葉。産み出された繋がりを経て玲人の世界が立奈に流れ込む。
そして、少女は影に飲まれた
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「んッ……くっ……」
先輩の詠唱が終わった途端、ナニカが私の中に流れ込んでくる。多分これが先輩の歪む世界が流れ込んでくる感覚なんだと思う。
契約を成功させるには、まずこの感覚を乗り越える必要があるらしい。
話には聞いていたけれど……
「ぅ……あぁ!」
なるほど、これは簡単に耐えられそうなものではない。
苦痛か快感か。奇妙な感覚が断続的に流れ込んでくる。
『上手くいくとは限らないぞ』
全くその通りだと思う。私は何を根拠に出来るなんて思ったのだろうか。いや、根拠なんてなかったのか。
自分でもこの行動には驚いた。確かに、二人で助かる可能性が一番高いだろうとは思う。しかしそれも、成功した場合のことだ。失敗なんてしたら無駄に時間が経過する羽目になる。それなのに……
「(先輩だってそれはわかってるはずなのに、賭けてくれた……!)」
つまり、先輩は成功の目があると信じてくれたんだ。その信頼を裏切るようなことはしたくない。
「(飲まれて、たまるか……!)」
目の前が黒く明滅する。視界の端で視界の端で影が蠢く。先輩の歪む世界の影響だろうか。
歯を食いしばって気合いを入れ直す。
ものの
少しずつ
少しずつ
闇が
広がっ
「……おや、珍しいお客さんだね」
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「……!来た!!」
突如脳裏に浮かんだ情報に、契約の成功を確信した。裏庭に面しているガラス戸が破られた音が響く。のんびりしている時間はない。
「行くぞ。《画竜点睛》!」
寝室の扉を開けるのと同時に鉄脈術を行使する。思い切り振りかぶった腕に追随するようにしなるソレは、玲人の思い描いた通りに屍武者の首を打ち据える。
今まさに侵入を果たそうとしていた屍武者は、突然の攻撃に対応できずに無抵抗のまま吹き飛んだ。
振り抜いた拳を屍武者の方へと向け、勢いよく拳を開く。すると、ソレの先端から破裂するように無数の針が飛び出し、追い打ちを仕掛けた。
「これが……鉄脈術か……」
玲人の鉄脈術はどうやらソレ––––即ち影を自在に操る性質を持つらしい。
初めての感覚に戸惑っていると、なんの前触れもなく影が消える。そういえば、契約成功時に発動した鉄脈術は、本来の発動可能時間に関わらず10秒程度で消えてしまうと聞いたことがある。
「立奈、もう一度……立奈?」
「……ふぁい?」
立奈の様子がおかしい。再発動しようと声をかけるが、どこかぼんやりとした答えが返ってくる。
目の前で手をひらひらとさせてみるが、見えていないのか反応がない。
「……マズいな」
「何が?」
玲人の呟きに、別の場所から声がかかる。目を向けると、丁度輝橋が庭先に降り立ったところだった。
妙に真剣な顔をした輝橋は玲人と立奈を交互に見ると……
「ヤッちゃった?」
「誤解を招きそうな言い方止めろ」
「……あっ」
「立奈さん!気が付きましたか?」
燕たちと合流してすぐに立奈の意識は戻った。武蔵野がアレコレ質問しているが、特に問題はなさそうだ。
「……なるほど。事情は理解した」
こちらはこちらで、いずもの中で何をしていたかを燕に報告する。思うところはあるようだが、現在の状況を考えてひとまず置いておいてくれるようだ。
話の内容は玲人たちに発現した鉄脈術へと移っていく。
「出来れば使えるに越したことはないんだが……立奈を巻き込むのはな……」
「あ、それに関しては問題ないと思います」
そういうと玲人は自分たちの鉄脈術―――《画竜点睛》の特性について説明をする。即ち、効果範囲と持続時間が非常に長いことだ。これにより魔女である立奈と必ずしも行動を共にする必要がないという強みが生じる。
「それは本当か?」
「まぁ、無理しすぎなければ。立奈たちを山から下ろしても問題なく動けます」
「そうか……ならば大きな変更は必要ないな」
再び急襲される可能性もあるため、迅速に行動する必要がある。
燕の号令で再び下山組と捜索組に別れるが、その前に。
「……そんなに緊張しなくてもいいんだぞ?」
「いえ、その、はぃ……」
どこか落ち着かない様子で立奈が近づいてくる。鉄脈術を発動するためだ。
効果時間が切れ、再発動の必要があった輝橋たちは既に発動を終えており、全員の注目がこちらを向いている。
「……向こうの陰の方じゃダメですか?」
「ダメじゃないけど余計変なことしてる感出ると思うよ」
「うぅ……」
立奈自身も時間がないことは理解しているのか、それ以上ごねるようなことはなかった。
差し出された玲人の手に重ねるようにして立奈の手もリアクトカメラに触れる。
「精錬開始、最果て見えぬ影の中」
「精錬許可、最後の希望は手中にありて」
先ほどは気づかなかったが、発動に使ったリアクトカメラが変形している。これも鉄脈術の効果の一部か。
変形したカメラの使い道は分かっているので、邪魔にならないようにジャケットの内ポケットにでもしまっておく。
「……ん?あれ?」
「さて。もういいですよ」
「……そうか」
首をかしげる輝橋をよそに、燕の指示により立石たちが下山のコースを取る。
大丈夫か、と目で問いかけてくる輝橋に問題ないとうなずいて見せると、それ以上詮索するつもりはないのか、如月を抱えて飛び立った。
それぞれの班が無事に出発したのを確認し、玲人たちも行動を開始する。
さあ。ミッションスタートだ。
後書き
完結まで残り2〜3話です。
少し忙しくなるので次回更新がまた遅くなると思いますが、ごゆるりとお待ちいただけたらと思います。
誤字・脱字、感想等いただけると幸いです。
ではでは〜
ページ上へ戻る