無住寺
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第一章
無住寺
平安の頃のことである、
ある旅の修行の僧仮に名前を全済という若い僧が荷物を持つ強力の安世まだ子供に近い年齢の彼と共に摂津の国に来ていた。
旅を続ける中で全済は安世に話した。
「さて、夕刻になったが」
「近くにこれはという場所もないですね」
安世は全済に応えた。
「これといった」
「だから今宵もだ」
何もないその場所を見回してだ、全済は言った。摂津はかつて都があったが今は草と川しかない。人はいるが今いる場所は草と木ばかりだ。
「草枕となるか」
「いえ、あちらにです」
ここで安世は先を指差して言った。
「村がありますので」
「そうだな、少し歩いてな」
「あの村まで行き」
「雨露を凌げる場所を探すか」
「そうしましょう」
「宿はいい」
全済はそれはいいとした。
「贅沢は言わぬ」
「だからですね」
「うむ、だからな」
それでというのだ。
「そうした場所を求めよう」
「それでは」
「急ごう」
こう言ってだった。
全済は安世を連れてそのうえで村に急いだ、そして村に入ったが。
村人に何処か雨露を凌げる場所を問うたが村人はこう言った。
「寺があるんですが」
「ではその寺に頼んで」
「いえ、その寺今は誰もいないんです」
「人がいないのか」
「はい」
そうだというのだ。
「誰も。住職の方もどなたも」
「そうなのか」
「随分長い間誰も住んでいないので」
それでというのだ。
「かなり荒れていますが」
「それはいい」
全済は村人に笑って答えた。
「雨露を凌げるだけで」
「宜しいのですか」
「なら今宵その寺をお借りしよう」
「そうしてですか」
「休ませてもらう」
こう言ってそうしてだった。
全済は安世を連れてそのうえで寺に入った、その寺は確かに誰もおらず荒れ果てていた。だがその中でだ。
二人は干し飯を食べて夕食としてだった。
そうして寝ようとしたがどうにもなった。
「よくないものを感じるな」
「確かに」
安世は全済に答えた。
「私もです」
「こうした時はだ」
「はい、修行ですね」
「それに励んでな」
「疲れてですね」
「寝る様にしよう」
「それがいいですね」
「そうだ、眠れぬ時もな」
そうした時もというのだ。
「そうしてだ」
「その方がいいですね、では」
安世も頷いた、そして二人で安世は出家していないがそれでも常に全済と修行しているのでそれでだった。
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