ウルトラマンカイナ
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特別編 ウルトラカイナファイト part5
前書き
◇今話の登場ウルトラマン
◇覇道尊/ウルトラマンエナジー
3年前、怪獣や異星人の脅威から地球を救った若きウルトラマンと、その依代になった人物。アイスラッガーに近しい形状の突起物を持つレッド族のウルトラ戦士であり、必殺技は斜め上に伸ばした右腕の肘に左腕の指を当てて発射するエナジウム光線。現在の尊は身辺警護課の警備員であり、年齢は20歳。
※原案はたつのこブラスター先生。
「おぉーい、この子を頼む! 意識が戻らないんだ!」
「輸血の用意は!?」
「痛え……ちくしょう、痛えよぉ!」
椎名雄介がウルトラマンザインと再び一体化し、遺体袋を突き破って復活した頃。逃げ遅れた人々を保護している総合病院は、さながら野戦病院のような惨状となっていた。
医師も、看護師も、休む暇すらなく次々と運び込まれて来る急患達の対応に追われている。
「……」
その喧騒を背に、力無くベッドに横たわる「部下達」を静かに見下ろしている青年がいた。表情に悔しさの色を滲ませている彼――覇道尊は、無言のまま拳を震わせている。
(あの時……奴はすでに、動き出していたのか)
テンペラー軍団の襲撃開始から、約1時間前。とある世界的な大企業の令嬢が、妖しげな老紳士に奇襲されるという事件が起きていた。
その老紳士が仕込み杖に隠していた剣によって、令嬢のボディガードを任されていた身辺警護課の警備員達は、瞬く間に斬り伏せられてしまったのである。
唯一、老紳士の剣技と互角に渡り合うことが出来た尊は、仕込み杖を叩き折り後一歩というところまで彼を追い詰めたのだが。
『流石は世界最優のボディガードと謳われる、覇道尊と言ったところか。それとも、「ウルトラマンエナジー」と呼ぶべきかな?』
『なッ……!?』
老紳士が放ったその一言に虚を突かれ、取り逃してしまったのである。結果として令嬢を守り抜くことには成功したものの、重傷を負わされた部下達の仇を討つことは叶わなかったのだ。
3年前、ウルトラマンとして地球を救った自分の「過去」を知っていた謎の老紳士。その声色は、今まさに東京を蹂躙しているテンペラー星人の声と、完全に一致している。
(済まない……お嬢、皆……! ボディガードであるはずのこの俺自身が、襲撃の元凶になってしまうとは……!)
テンペラー星人は尊の実力を測るためだけに、老紳士の姿に擬態し。令嬢を襲い、部下達を傷付けていたのだ。
今になってようやくそれを理解した尊は、自分のせいで部下達が斬られたのだと、自責の念に囚われているのである。その腰に提げられた剣状の変身アイテム――「ウルトラエナジーソード」は、自分自身への怒りが伝播しているかのように紅く輝いていた。
「うぅ……あぁあ……! 助けて、痛い、痛いっ……!」
「ママ、ねぇママ、起きてよ! 目を開けてよぉっ!」
「お父さん、お母さんっ! しっかり、しっかりして! 諦めちゃダメぇっ!」
背後から聞こえて来る、患者達の呻き声。子供の泣き声。家族の危篤に狼狽する声。それらは全て、テンペラー軍団の破壊活動による被害者達の「嘆き」であった。
(俺のせいだ……! 俺があの時、奴を仕留めていればこんなことにはッ……!)
老紳士に扮していた時のテンペラー星人を、あの時に倒せていたら。そんな思いが過ぎる度に、尊はその頬に雫を伝わせ、血が滲むほどに拳を握り締めていた。
「覇道さん、誰を責めても仕方がないことはあります。自分独りで背負い込むのは、もうやめにしましょう」
「三蔓義先生……」
その時。わなわなと震えていた尊の手に、部下達の主治医――三蔓義命の手が重なる。
「幸い、この方々も命に別状はありません。僕達も彼らに負けないように、今出来る最善を尽くしましょう。……助かった人には、助かった人にしか出来ないことがあるはずです」
「……!」
鞘を握る手の震えを鎮め、嗜めるように語り掛ける命の言葉に、尊はハッと顔を上げる。眼前の鏡には、自分自身の悲痛な貌が映り込んでいた。
『その顔はなんだその眼はなんだ、その涙はなんだ!? お前の涙で、この地球が救えるのか! 牙無き地球の人々は、それでも必死に生きているというのに! 牙を持ちながら挫ける自分を、恥ずかしいとは思わんかァッ!?』
3年前、ウルトラマンとして怪獣や異星人達と戦い続けていた頃。尊は何度も侵略者達に敗れ、何度も挫けそうになっていた。
(レグルス師匠……)
そんな自分を、苛烈なまでに厳しく指導していた師匠――「ウルトラマンレグルス」の言葉が、脳裏を過ぎる。今の自分の貌は、その言葉をぶつけられた時のような酷いものであったということに、尊はようやく気付いたのだ。
消えかけていたその眼の炎が、かつての勢いを取り戻していく。側で彼の「変心」を見守っていた命も、その心境を察しているようだった。
「……三蔓義先生、ありがとうございます。今、ようやく思い出せました。俺が何者なのか。そして今、何が出来るのかを」
「そうですか……それは良かった。さぁ、ここは僕に任せてください。あなたは、あなたに出来ることを……お願いします」
「はい……!」
昏睡状態にある部下達を一瞥して。尊は命に一礼すると、涙を拭い病室を後にする。闘志に満ちたその背中を、命は静かに見送っていた。
やがて病院の外へと飛び出した尊は、街の惨状に唇を噛み締め、ウルトラエナジーソードの鞘を握り締める。すでに上空では、「イカロスの太陽」により発せられた人工のウルトラサインが煌々と輝いていた。
「これ以上、お前達の思い通りにはさせんッ! ウルトラマンッ……エナジィィィイッ!」
そして、地球を救うウルトラ戦士としての使命を完遂するべく。勢いよく鞘から抜刀した彼は、絶叫と共にその切っ先を天高く掲げるのだった。
刹那、尊の全身を眩い輝きが飲み込んで行き――剣を中心に広がっていく閃光が、ウルトラセブンを彷彿とさせる「真紅の巨人」を形成する。
それから間もなく。アイスラッガーのような突起物を備えたレッド族のウルトラマンが、拳を突き上げ「ぐんぐん」と出現した。
ウルトラマンカイナ、ウルトラアキレス、ウルトラマンザイン。その後に続いて地球に現れた、第4の新人ウルトラ戦士――「ウルトラマンエナジー」が、3年振りの復活を果たしたのだ。
『アキレス兄さんとザイン兄さんも動いているはずだ……急がねば! デァアーッ!』
マッハ5の速さで地を蹴り、両手を突き出し大空へ飛び立つウルトラマンエナジー。その勇姿を病室の窓辺から見届けていた命は、優しげに口元を緩めている。
「……何度倒れても挫けても、その度に立ち上がってきた君になら出来るはずだ。私も信じているよ、ウルトラマンエナジー」
――かつては別の次元の地球を救ったこともある、歴戦の猛者「ウルトラマンドクテラ」は。「三蔓義命」の名を借りて、若きウルトラマン達の勝利を祈るのだった。
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