タイトル案は第一話に記載しています。
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終焉の鐘
ー軍本部 勇者訓練施設ー
あ、ああ、あああ、
聖典に則り、人類は例外なく滅ぼさなければ、ならなかったはずだ。
存在価値を問う、役目を果たせぬ傀儡に。
全身に寒気が走り、どうしようもない苦悶と苦痛が押し寄せる。
己の犯した罪の重さを、失敗の代償を、一身に背負いきれず、胸の奥から、言いようのない不快感が込み上げてくる。
洗面所へと向かう、
「う、ぉぅぅぅあぁぁぁぁ」
洗面台に嘔吐した。
眼前の鏡には一瞥も与えない、きっと酷い顔だ。
寝床に倒れ込み、一秒毎に暴走を繰り返す感情が、止めどなく涙を流れさせる。
頭痛がする。全身が痛い。今までの疲労の蓄積、その全てが僕を蝕む。
体を極限まで縮こめ、精神は自滅へと向かう。
声にもならない嗚咽が、毛布の中に消えていく。
ー................苦しい。
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自室で、あのときのことを思い出す。
敵は新型の魔族。
絶体絶命だ。相打ちにはできても、私は死んでいた。
「お前なんかに、殺させはしないッ!!」
そう、勢いづいて去勢を張る。
もう、駄目かもしれないな。
ここで、死ぬのか。
「じゃあね、これで、終わり」
黒の斬撃が、急襲する。
避けられない。炎魔法で反撃を用意しているが、身を守ることはできない。
ここまで、か。
ーああ、まだ、死にたくないな...
死にゆく哀愁と、世界への惜別。
静かに、目を閉じ、終わりを受け入れようとした。
「な、何っ!!?」
ー滅びの斬撃は、目の前で弾かれていた。
驚いて、目を開き、見上げる。
「お前...ルード、か?」
最近、よく会っている少年の名を呟く。
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「どうして、僕に構うんですか?」
あいつは、いつだって不器用だったな。
「僕に同情は要りません。そんなものは不要です」
とても大きなものを、たった一人で背負い込む。
「だからさ、そんな寂しそうな顔するなよ」
それは、心配ではなく、心からの願いだった。
「じゃ、頑張れよ。応援してるぜ」
それは、何気ない別れの挨拶ではなく、純粋な声援だった。
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その少年の方へ振り返り、言った。
「ありがとう、本当に、助けられた。あなたに、感謝を」
心からの思いを、口にする。
命が助かった安心よりも、それよりも大きい感謝と、今まで以上の笑顔で。
貴方は、俯いたまま、何も言わない。
人一人助けたことを、微塵も誇ろうとしない。
ーもし、ただ一つ叶うなら、その孤独な道行に。
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寝床に蹲り、我が身を呪い続ける。
自業自得だ。勝手に間違えて、勝手に苦しむ。
哀れで、滑稽で、何よりも気持ち悪い。
涙は止まった。声はもう枯れた。
残ったのは、ただの空っぽな器だ。
感情の暴走が峠を越えて収まってくる。
残ったのは、ただ空虚な心だ。
こんな生に意味は無く、
たった一つ、信じていた物さえ裏切り、
残ったものはただ空虚で、
呼吸をすることが、嫌で仕方ない。
ーああ、もういっそ、このまま。
毛布に顔を埋め、呼吸を止める。
このまま死んでしまえば、救済はない。
墜ち行く先は、自我さえない虚無だ。
それでも、僕には、もう立ち上がる資格が無い。
望みは絶たれた。決意も覚悟も砕け散った。
成し遂げたことは何もない。無駄な人生だった。
ただ一つ、叶えたい願いすら思い出せない。
ー......................さようなら。
「来たぜ。邪魔だったか?」
そこに立っていた。ここまで来たのに、気付かなかった。
「どうした?何かあったみたいじゃないか」
ローゼマリー中佐は、僕の前に立ち、そう尋ねる。
僕は.....
そこから立ち上がる。
言葉が、口をついて出てきた。
「僕は、間違い、重大な失敗をしました。たった一つ、信じていたものさえ裏切って」
何故か、ありのままを口にしていた。
「そうか、失敗、か。ところで、それを後悔しているか?」
後悔?ああ、それはそうさ。
するに決まっているだろ。
「......ええ、後悔していますよ。あの時、違った行動をとっていれば...」
「なら.....
後悔しているなら、それは、《《次はもっと上手くできる》》って、そう思っているってことじゃないか」
次?そんなものは...
いや、まだ、戦いは終わっていない。
「後悔は、次はもっと上手くできる、二度と失敗しないという、《《自信》》の現れだ。」
ー.....................
そうだ、........そうだよ、
僕は、もっと上手くできたはずだ。
二度と、同じ失敗はしない。
「なら、それは失敗じゃない。次への布石さ」
失敗も、間違いも、あり得ない。
「そんなのは、全て終わってからじゃないとわからないんだからさ。なら、考えるのは次のことがいい」
常に最善策を。
作戦が失敗したなら、利用して次へと繋げろ。
最後に勝つのは僕だ。
終わりの日まで、戦い続ける。
「...だからさ、そんな顔、するなよ」
「はい!お言葉、ありがとうございました!!」
ーもう、立ち止まらない。
僕が、全てを終わらせる。
そして、少年は、終焉へと歩き出す。
もう二度と、踏み止まることはない。
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