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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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翼星の守備力

 
前書き
翼星戦に予想の数倍時間がかかっている件について 

 
投球練習を行う少女。彼女を観察するように莉子と真田がじっと目を向けている。

「アンダースローで打ちにくいボールはなんだと思う?」
「ライズボール……ですか?」

莉子の回答に頷く真田。その他の投げ方では絶対に出てこないボール……それが下から浮き上がってくる軌道を描くライズボールだ。

「ライズボールは捨てろ……っていうのは簡単なんだけど、そう易々と指示を出せないのもこいつの特徴なんだよな?」
「えぇ?どういうこと?」

話を盗み聞きしていた優愛が首をかしげながら問いかける。その後ろには他の選手たちも来ており、真田は全員を近づけさせる。

「ライズボールは変化球なんだ」
「え?でも変化してなくないですか?」
「いや、上に"変化"しているって考え方なんだ」

彼の説明にイマイチ納得がいっていない面々。本来なら分かりやすく説明したいところではあるが、そんな時間はない。

「狙いやすいのはカーブとシュートかな。投球の割合もこいつらが多いからな。シュートは引っ張ってカーブは流していけ」
「了解です」

投球練習が終わったため手短に指示を出して莉子を送り出す。ただ、本来ならもっと細かく指示を出したかった彼は険しい顔をしていた。

「ライズを捨てきれないってどういうことなんですかぁ?」

気になって仕方がないのかネクストに向かうことを忘れて彼の横に立っている。

「まずはストレートが投球の基本になるのはわかるよな?」
「一番力があるボールだからですよね?」

人間が投げる上でもっとも投げやすく力を注ぎやすい球種(ストレート)。世界中探してもストレートを投げれない投手はいないといっても過言ではないほど基本になるボールなのだ。

「実は打者から見てもストレートは基本の球種と考えられるんだ」
「え?コースじゃなくて?」

よく言われる定説としてアウトコースは流し打ち、インコースは引っ張るというものがある。それはその打者が一番理想的なスイングをした際、捉えられるコースが真ん中に位置付けられていると仮定しているからだ。

「球種の判別を行う時に基準となる球種がストレートなんだ。よく相手の配球が読めない時はストレートにタイミングを合わせろって言われているだろ?」
「そうなんですか?」

隣に来ていた莉愛が問いかける。その間にも莉子は打席に入り遠藤との対決に臨んでいた。

「その理由はなんでだ?葉月」
「遅いボールにタイミングを合わせていると速い球が来た時に対応できないからですよね?」

葉月の問いに頷く真田。想定よりも遅いボールが来た時は下半身の粘りとバットの出だしを遅らせることができれば対応することは可能だが、逆の場合はなす術がなくなる。

「それだけが理由なの?」
「もう一個こういう理論がある。それは《内角高めのイメージを持て》っていう理論だ」
「そんな理論があるんですか?」

未経験者の莉愛はもちろん、経験者の瑞姫や上級生たちもほとんどのメンバーがクエスチョンマークを浮かべている状態。それだけ彼の言った今の理論は浸透していないものなのである。

「これは習性的なものだな。打者はイメージよりも身体に近いボールや高いボールに反応しにくいんだ。だからあえてそのイメージを持つことですべてのボールに対応できるって考え方だ」

へぇ、と感心したような声を出す少女たち。しかし、それだけでは先程の説明がわからないままである。

「ストレートを打者が基準にするのはスピードと通常(・・)の変化球ではこれよりも上を通過する球種がないからだ」
「あ……」

バックスピンをかけることでもっとも浮力を与えられているストレート。それに対し横回転やトップスピン、無回転といった様々な回転で異なった変化を与える変化球は浮力が落ちる。そのため、どの球種もストレートより上を通過することがないのだ。

「球の出だしが遅ければストレートよりも低く来るのは決まっているからそこから対応すればいい。だが、ライズボールはストレートよりも遅いにも関わらずそれよりも高いコースに向かってくる。だから捨てようにも身体が変化球と錯覚してしまい手が出てしまうんだよ」

悩ましげに腕を組む真田。そんな彼に明里が思ったことを聞いてみる。

「じゃあライズボールに照準を合わせてみては?」
「それだとストレートが来た時に対応できないんだって」
「あぁ……そうでした」

真田のその回答を聞いた後、今度は優愛があることに気が付く。

「あれ?でも今莉子さんにカーブかシュートを狙って言ってたような……」

今の理論からだとその狙い球は的外れになってしまう。それなのに監督はその指示を平気な顔で出していた。

「ライズに手を出しにくくするための方法の一つだな。変化球に照準を合わせておけばストレートは手を出さないし、出だしが近い軌道になるライズも手を出さない……はず」

最後の一言が不安を煽ったがここは彼の経験値を信じるしかない。なかなか対戦する機会のないアンダースローを相手にどう攻めるべきか、少女たちは試合へと視線を向けた。
















(狙いやすいならカーブだろうな。まだノーアウトだし、ゲッツーもない。気楽に挑める)

打席に入った莉子に力みはない。それを見て岡田はタメ息をついた。

(この場面じゃ力みなんかあるわけないか。となると大量点を避けるために低めに集めるか……)

仕方なしといった様子で低めへのカーブを要求する岡田。しかし、遠藤はそれに首を振る。

(珍しい……ならシュートで……)

いつもなら岡田に全面的に任せている遠藤だがなぜかこの日はサインが決まらない。二回続けて首を振られたことで岡田は顔をしかめた。

(ならストレートでいいよ。打たれても知らないよ)

アウトローへのストレートを要求。遠藤はこれにようやく頷き、投球に入る。

(低っ……)

手から離れた瞬間低いと判断しバットを止める莉子。しかし、ボールはアウトローギリギリに吸い込まれるように決まる。

(これが入るのか……厄介なボールだな)

下から放たれる独特の軌道に慣れるには時間がかかることを認識した莉子。そんな彼女の動きを見ながら、岡田は思考を巡らせる。

(なるほど……下からの軌道に慣れる前に仕留めようと思ったわけね。なら……)

サインを出すと中腰に彼女は構えた。遠藤はそんな彼女を目掛けるように真ん中へと投球する。

(ど真ん中?しかもこの球速はーーー)

先程のストレートよりも遅いボール。変化球に狙いを定めていた彼女はこれに食い付くが、ボールは予想を裏切るように伸び上がっていく。

「ヤバッ」

思わず声が出た。球が遅いせいで自然と付いていけてしまうバット。高めへと伸び上がってきたそのボールの下を叩き、打球はキャッチャーへのファールフライとなり、岡田ぎこれを危なげなく捕球した。

「今のがライズか……」

初めて見る軌道に思わず目を疑ってしまう。本当に浮き上がってくるそのボールは捉えるのが困難なことはすぐに理解できた。

「ライズですか?」
「そうみたいだ。変化球だと思って思わず手が出てしまった」

すれ違い様に優愛へと情報を伝える莉子。それを受けた優愛は打席へと向かった。

(本当にストレートより遅いんだ。それなのになんで浮いてくるん……ん?)

一体どういう原理で浮いてくるのか考えていたところ、捕手が球審と話しているのが目に入る。

「タイム!!バッター、一塁へ」
「へ?」

突然一塁への進塁を指示され困惑する優愛。それが申告敬遠だと理解するのにそう時間はかからなかった。

「うわっ……申告敬遠なんて初めて見た」
「でも満塁の方が守りやすいもんね」

一塁が空いていたためそれを詰めた方がフォースプレイになるためアウトが取りやすい。ごく当たり前の選択をしたように見える翼星バッテリー。しかし、真田は一つ気になる点があった。

(なんで莉子の時にそれをしなかったんだ?)

ノーアウト二、三塁。この場面ではホームがクロスプレーになるため打球によっては生還を許してしまう。同点の場面で守備に重きを置いている彼女たちがそのリスクを背負って勝負した意味がわからなかった。

(アンダースローやサイドスローは逆利きのバッターを苦手とする傾向があるというけど……でもそれじゃあ満塁で葉月と勝負することになるし……)

左打席に入る少女を見ながらいまだに疑問を拭えずにいる頭を切り替える。満塁のため特に動くことはないが、ダミーのサインを一応送っておく。

「プレイ!!」

プレイが再開されランナーがリードを取る。岡田きらサインを受けた遠藤はそれに頷きセットポジションに入ろうとしたその時!!

バッ

身体の前で止まりかけた手を外しすぐさま一塁へと振り向く遠藤。

「わわっ!!」

無警戒だと思っていた優愛は一塁に背を向けるようにリードを始めていたため予想外のその動きに反応が遅れた。慌てて一塁に飛び付くがそれよりも早くボールはファーストのミットへと収まり……

「アウト!!」

優愛は戻りきることができず牽制死してしまった。






 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
翼星戦でここまで時間がかかると準決勝と決勝果たして何話かかるのか既に不安なんですが( ̄▽ ̄;) 
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