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台風が過ぎて

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第一章

                台風が過ぎて
 台風が迫っていた。
 それで青柳澄香は夫の健に言った。
「お爺さん、台風が来てもね」
「ああ、田んぼを見に行くことはな」
 夫もこう返した、二人は農家でかなりの敷地面積の水田を持っている。他には空いた場所でトマトや玉蜀黍、ジャガイモを造っている。
「しないさ」
「そう、よくあるでしょ」
 妻は夫に言った、二人共白髪で皺の多い顔であるが背筋はまだしっかりしている。息子夫婦や孫達と共に家業の農業に勤しんでいるが二人の家にいるのは今は二人だけである。家の敷地内にもう一軒家がありそこに息子夫婦と孫達がいるのだ。
「溝に足を入れてね」
「それで水に引き込まれてな」
「そんなことがあるから」
「見に行きたくてもな」
 田んぼが心配でだ。
「それでもな」
「命あってだから」
 それでというのだ。
「見に行かないことよ」
「そうだな」
「今回の台風はそんなに強くないし」
「余計にだな」
「ここはね」
 台風が来てもというのだ。
「我慢して」
「行かないことだな」
「後で見に行けばいいのよ」
 台風が過ぎた後でというのだ。
「だからね」
「ああ、大人しくしているな」
「そうしていてね」
 こう話してだった。
 二人は台風の間はじっとしていることにした、そして。
 妻はその中で夫にこうも言った。
「台風が行ったら」
「ああ、もう後はな」
「すっきりするわ」
「湿った空気は全部台風が持って行くからな」
「それに晴れるから」
 台風が過ぎ去った後はというのだ。
「だからね」
「行くまでの辛抱だな」
「そう、だからね」 
 それでというのだ。
「今はよ」
「辛抱だな」
「台風も悪いことばかりじゃないし」
「雨も必要だしな」
 即ち水もだ。
「田んぼにもな」
「飲むしお風呂にも使うし」
 妻は風呂好きだ、それでこう言ったのだ。 
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