絶撃の浜風
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外伝 加賀編 01 一航戦暗黒神話Ⅱ
前書き
前回の赤城編 一航戦暗黒神話の続きになります
この後の話がちょっと長いので時間がかかりそうです
続きに大本営編を一本挟む予定です
(2020年12月15日 執筆 16日全面加筆修正)
赤城が更迭されてからおおよそ3ヶ月後、某鎮守府に加賀が就役してきた。年の頃は赤城と同じ、14歳だった
中学生とはいえ、加賀は覚醒前からかなり異質な存在として周囲から知られていた。無表情で言葉にも抑揚がなく、何を考えてるのかさっぱりわからない
それでいて曲がった事が嫌いで正義感が強く、何事にも物怖じしない堂々とした立ち振る舞い・・・とても中学生とは思えない風格というか威厳のようなものすら漂わせていた
腕っ節も半端なく、喧嘩で加賀とまともにやりあえる男は、教師も含め、同じ校内にはいなかった
加賀が入学して間もない頃の事、ちょっとした事件があった
三年生の空手部男子に無理矢理入部させられそうになっていた同級生を助けた事があった
状況を見て事情を把握した加賀は、
「・・・おやめなさい・・・本人の意思を曲げて無理強いするものではないわ・・・」
「あ”っ!?・・・・んだてめえっ! コラ一年坊の女が、誰に口きいてんだコラ・・・あ?・・・あががぃいいてええええっ!!!!!」
合気の類いであろうか・・・・加賀はゆっくりと空手部男子の脇をすれ違ったと思うと、左腕を後ろに捻り上げていた
「ほら、この子に謝りなさい・・・ごめんなさい、もうしませんって・・・・」
「あがっ・・・は、離せてめぇっ!!! ふざけてんじゃねえぞっ!!!」
「・・・そう・・・じゃあ、しかたないわね・・・・・」
そういうと、加賀は男の腕を更に捻り上げた
「あぎぃ・・・わ、わかった!謝るから離してくれっ!!」
「そう・・・素直なのはいいことだわ・・・」
そういって加賀は男を解放した・・・その直後、
「このくそアマァッツ!!! ぶっ殺すッツ!!!」
正拳を、加賀の顔面めがけてぶち込んだ・・・・かに見えたが・・・
「ビシィッッ!!!」
加賀は、男の拳を素手で受け止めた
「な、なにぃぃぃっ!!!」
「・・・まったく・・・流石に気分がゲンナリします。あなた、それでも男ですか?」
「・・・メリッ!・・・ゴキゴキッ!!!」
そういうと、加賀はそのまま男の拳を鷲掴みのまま握り潰した
「あがっ!! ぐあぁぁぁぁひぃぃぃーーー!!! お、おふぅぃでぇええええっ!!!」
「・・・男が、これくらいで悲鳴をあげるものではないわ・・・」
男の手を離すと、加賀は何事もなかったかのように同級生の元に歩み寄り、
「大丈夫? もし、また変なのに絡まれたら、私にいいなさい。いいですね?」
「あ、う、うん、わかった!ありがとう岬さん。」
「それにしても、何故あのような男を学校は野放しにしているのかしら?・・・・妙ですね・・・」
それから加賀は、119番に連絡を入れ、泣きわめく三年男子を救急車に放り込んでそのまま教室へ戻った
そして程なく加賀は、担任と共に校長室に呼び出された
「なんてことをしてくれたんですか、岬くん。上級生に怪我をさせるなんて、何故こんなことをしたんですか?」
校長の一方的な言いように、さすがに担任が加賀をかばう
「校長!いくらなんでもその言い方はないですよ。見ていた者の話では、岬が先に殴られたそうじゃないですか!それも女子の顔を殴るなんて・・・」
「殴った方が、なんで骨折するんですか! しかも彼は空手部ですよ! 何をしたんですか!」
「空手部・・・・!! 余計に質が悪いですよ! 何を言ってるんですか!」
《・・・あれで空手部だったんですか・・・・普段まくらでも叩いてるのかしら?》
「問題はそこじゃありません。彼に・・・生徒さんに怪我なんかされたら、親御さんがまた騒ぎ出します!あとあと大変なんですから。」
「・・・彼に?」
「あ、いや・・・とにかく、この件は私が話をつけますから、岬くんは彼に謝りなさい。いいですね?」
「・・・・そう・・・・・ずいぶんとあの男の肩を持つのね・・・・何かあるのですか?・・・・理由を言いなさい・・・」
「な、何ですかその口の利き方はっ!」
と、言いかけた時、
「・・・あなたは私の友達じゃありませんし・・・構いませんよね・・・・」
「・・・・え?」
「パーーーーーーーーーーン!」
加賀は校長の頬を張った
「な、な?・・・?」
「聞こえなかったの?・・・言いなさいと言いましたよ・・・・」
「わ、わたしに手をあげたなっ! 校長のこのわた・・・・」
「パパーーーーーーーーーーーーーン!!」
今度は往復ビンタだった
「・・・・何度も同じ事を言わせないで・・・・」
「こ、こんな事をしてただですむと・・・」
「パンパンパンパンパンパンパンパンパンパン・・・・・・・・!!!!!」
往復ビンタの機銃掃射が校長の頬に炸裂した
「あが・・・が・・・・・」
「・・・もういいです・・・・言いたくないならそうしてなさい・・・」
あまりの出来事に一瞬ぼうっとなっていた担任が我に返り、
「・・・はっ・・・み、岬っ! もうよせっ!」
振り上げた加賀の腕を掴む、がしかし、腕にしがみついた担任ごと掌が振り抜かれる
《な・・なんだ? このパワーはっ!!! 体ごともってかれ・・・》
「ぶうん!」
堪らず手を離した担任は、校長室の端まで吹っ飛んだ。そして・・・・
「パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン・・・・・・・・!!!!!」
校長の顔が、瞼が開かなくなる程みるみるうちに腫れ上がっていき・・・・・
「あひぃ・・まっひぇ・・・ひいまひゅ・・・・・まひゅ・・・」
「・・・そう・・・いい子ね・・・・」
(2020年12月16日 執筆)
その後、加賀は学校側に臨時総会を開かせ、校長に全校生徒の前で事の顛末を自白させた
要は、あの男の親から多額の寄付という名の心付けを校長が貰っていたため、これまで不祥事を起こしても揉み消していたという、よくある話だった
教育委員会でこの事が問題となり、校長は懲戒解雇、男はこれまで校長が揉み消して明るみに出なかった事件が続々と明らかになり、退学
その親も、収賄容疑で書類送検された
加賀はと言うと、やりすぎという事で、どうしてこんな無茶をしたのかと問い詰められた。だがそれに対し加賀は、
「処罰ですか・・・どうぞお好きに・・・あなた方のように、やらない理由をつけて、目の前の被害者を見過ごす事など、私には出来ません」
こう言われて、皆、黙り込んでしまったらしい
(2021年6月16日 挿入執筆)
いや、岬の言葉に気圧されて黙ったと言うよりは、その《血統》の前に恐れを成したという方が正しい
何のことはない、教育委員会の面々は、岬が艦娘《加賀》の血族であることを知っていた。その容姿に加え、空手部員を物ともしない膂力・・・尊大な振る舞い・・・
伝え聞く艦娘《加賀》のそれと、実によく似ていたからである。そして《加賀》に逆らった者のその後の顛末など・・・・(ぶるるっ!)
そう、一部の事情通の間では有名な話であった。岬が、恐らくは《加賀》として覚醒する可能性《大》であると
そんなわけで・・・・
結局、厳重注意となったものの、事を公にした功績を鑑み、加賀は不問とされた
ついこの間まで小学生だった、13歳になったばかりの少女が、ここ数年続いていたこの学校のどす黒い膿を絞り出した、というか、
加賀にとっては他愛のない、ちょっとした出来事であった
(2020年12月16日 2021年8月26日 執筆・加筆修正)
この事件以来、教師も含め、男どもは一様に加賀に一目置き、恐れおののいた
「岬には絶対に逆らうな! いいな絶対にだっ!!!」
が、当校の暗黙の了解となっていた
その一方で、年上、年下、同学年を問わず、女子からは概ね好意的に受け止められていた
一見、何を考えているのかわからないように見える加賀であったが、その実、思いやりが深く、優しい人柄であった
何かトラブルがある度に、上記のような事を繰り返していた。困っている人がいると、黙って見過ごす事が出来ないのが加賀の性分であった
そんな加賀の人柄が廻りに徐々に知れ渡るに連れ、女子たちの加賀を見る目が、少々違ったものになっていったのは無理からぬ事であった
「岬ねえさま!」
女子たちにそう呼ばれるようになるまで、そう時間はかからなかった
昼食時の食堂は、一時期大変な賑わいを見せていた。赤城と違って覚醒前も大食漢だった加賀の周りには、わんこそばの如く、大皿が山のように積まれていた
そんな加賀の元には、いつしか取り巻き女子たちからの食べ物の差し入れでいっぱいになっていた。正直、食費がいらないレベルである
加賀の、並外れた食欲と身体能力は、小学校3年生の頃に突然発現した。自分でも不思議に思っていたが、両親や祖母が、特に驚いた様子もなかったので、あまり気にならなくなり、やがて忘れた。ただ、
「岬ちゃんは、少し力持ちだから、友達と喧嘩しても手を上げちゃダメよ! 怪我させちゃうからね」
と、一度母に言われただけである
それでも、流石に中学生ともなると、自分が普通の子よりいささか食いしん坊で力が強いのは、普通ではないと思い始めていた
「・・・食べれば食べるほどにお腹が空きます・・・・これは・・・どういうことでしょうか?」
「・・・・いくら食べてもお腹が空くから・・・いつまでもご飯が美味しいわ・・・もぐ」
「・・・私・・・なんなんでしょうか?・・・ひょっとして・・・・・・・・・・天才?」
その辺りで合点し考える事を止めたのは、こと自分の事となるといささか大雑把な性格による
加賀の身に起きているこの現象は、極めて珍しい《部分覚醒》というものであった。肉体のみが艦娘として覚醒し、魂が置き去りになった状態である
魂の覚醒がなければ、艤装が鎮守府に召喚される事もないので、艦娘が部分覚醒した場合、大本営がそれを知る術はないのが現状であった
・・・そして
中二の秋、いつものように食堂で差し入れをほおばっている最中、特にこれといった前触れもなく、実にあっけなく、唐突に覚醒した。記憶もばっちり復活していた
「・・・ああ、そういう事でしたか・・・・なんだ・・・・天才じゃなかったのですね・・・」
ちょっぴりガッカリする加賀であったが・・・・
「・・・・・・いや、これはある意味天才と言えるのではないでしょうか?」
などと、訳のわからない得心をする加賀であった
「それはそうと、赤城さんはどうしているのかしら?・・・・・ぐぅ!・・・・」
食べている最中に、お腹が空く加賀であった
その日の夕方、某鎮守府から使いが来て、就役の日時が知らされた
それは折しも、赤城が某提督と約定を交わした日だった。まるで、赤城の怒りが呼び水になったが如く、加賀の覚醒を促したかのようだった
某提督は、大物艦娘の覚醒を喜んだのも束の間、よくよく考えたら、加賀は赤城と同じ一航戦の相方である
このタイミングでというのも出来すぎている
普通に考えて、このまま受け入れするのはマズい気がする・・・・そう直観していた
結局、某提督はこの事実の公開と加賀の受け入れを三か月後に先延ばしした
赤城と鳳翔を除いた編成で、しかもこれまで放置していた艦娘にも演習の機会を与えなければならない
加賀を受け入れるのは、こちらの体制が整ってからでいい。そう判断したのである
そして三か月後
加賀は、某鎮守府にやってきた
加賀が艦娘として覚醒した為、学校を辞め、某鎮守府へ転属となった事を知った取り巻き女子達は一斉に悲しんだ。無論引き留めなど出来るはずもなかった
見送りの日の朝、せめてもの餞別ということで、大量のおにぎりやサンドイッチ、おやつが加賀に持たされた。その量、100Lのザック一杯分であった
「鎮守府までの道中に戴いて下さい。岬ねえさま・・・私たちの事を忘れないで・・・」
涙ながらに見送る女子達・・・・その背後でほっと胸を撫で下ろす男子達の姿があった
「やれやれ、やっといなくなるか。正直、岬と3年間も一緒とか無理だし」
だが・・・
「そう・・・時々遊びに来るから・・・それまで我慢なさい」
わっ!と歓声を上げ喜ぶ女子達と裏腹に、
「・・・来るのかよ・・・」
と、ガックリと肩を落とす男子達であった
ザック満載の食料を持たされた加賀であったが、鎮守府に到着する少し前には、もう全て食べ尽くしていた
ゲートを抜け、端末で構内見取り図を見ながら執務室を探していた・・・・のだが、
「・・・ぐぅーーーーーーーーーー」
「・・・・・お腹が空きましたね・・・・」
「・・・・・・・・くんくん・・・・・」
「・・・・こっちですね・・・・・・」
加賀は、当初向かっていた方向・・・・提督のいる執務室とは、真逆の方向へと歩いていった・・・・・そして、
「・・・・鯖の塩焼きですか・・・・これは気分が高揚しますね・・・・」
そういうと、加賀は暖簾をくぐり、店内へと入っていった
「いらっしゃいませ。・・・あら、加賀ちゃん! 久しぶりねー」
「お久しぶりです、鳳翔さん。 鯖の香りに釣られて来てしまいました。また鳳翔さんのご飯が食べられると思うと、気分が高揚します」
「ふふ、ありがとう。 何か食べていくんでしょ?」
「赤城さんと、同じものを」
「・・・もきゅ?」
「もきゅ?・・・じゃありません。相変わらずの食いしん坊ですね、赤城さん・・・」
「・・・もぐ・・・もう、待ちくたびれましたよ、加賀さん」
「・・・何故か三か月も待たされまして」
「あぁ、そういう事ですか・・・胆の小さい男ですね、まったく」
「今度の提督ですか?」
「かなりしょーもない男です。おかげで鳳翔さんのご飯が一日中食べ放題です」
「・・・そういう事ですか・・・食べ放題は確かに魅力的ですが、これは捨て置けませんね・・・・」
「こらこら二人とも、ここは食べ放題のお店じゃありませんよ、もうっ」
《この二人・・・ずっと会ってなかったのに、もうお互いの思ってることが通じ合ってる・・・・》
(2020年12月17日 執筆)
時が二人を隔てていても、一航戦の阿吽の呼吸に淀み無し
《・・・この二人が揃うと、嫌な予感しかしないのは私だけかしら?》
今回もこの二人の”やんちゃ”にやきもきさせられるのかと思うと、鳳翔は「はあ~っ」と深い溜息をついた
「・・・もう、慣れましたけどね・・・」
「え? どうかしましたか? 鳳翔さん???」
「なんでもありませんよ。二人とも、あんまり無茶しないでね」
「もぐもぐ・・・それは無理です。無茶しない赤城さんなんて、赤城さんじゃありません」
「いやいや、この流れって次に無茶するの加賀さんですよね? よね?」
「がいひゅういっひょふえふ・・・・むしゃむしゃ・・・」
「・・・あ~、これは提督終了しましたね。ご愁傷様」
合掌する赤城
「殺しちゃダメよ、加賀ちゃん」
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ・・・むしゃむしゃむしゃむしゃ・・・」
「・・・・聞いてませんね」
「・・聞いてないわねぇ・・わかってたけど・・・・・・はぁ・・・・」
鳳翔は、二度目の溜息をついた
(2020年12月17日 執筆)
「何故加賀は来ない? 今日が出頭日だと伝えてあるんだろうな?」
もう昼を回っているというのに、一向に姿を見せない加賀に対し、某提督は苛ついていた
「ええ、確かに伝えてあります・・・・というか、もう構内にいるみたいですよ。十時過ぎに正門から入所してますね」
端末から、入出門記録を検索しながら、妙高は淡々と報告する
「この俺を差し置いて、どこへ行ったんだあいつは!」
「多分、鳳翔さんの所じゃないかと思います」
「あ? 何故、鳳翔なんだ?」
「あの方、すぐお腹を空かしますからね・・・大方、食べ物の匂いに吊られて寄り道してるのでは?」
赤城と鳳翔が退役扱いにされた後、秘書官を継いだのは妙高だった。彼女もまた、艦艇時代と、艦娘時代の記憶を有している。欧州はイタリア留学を経て某鎮守府へ赴任となり、そのまま秘書官となったのである
「ふざけた奴だ。やはり赤城の片割れだけあるな。すぐに呼ばなくて正解だった」
「提督・・・いつの時代も加賀さんはこんな感じですよ。諦め半分で、ドンと構えていた方が賢明です、と進言しておきますね」
「お前はどうなんだ? 妙高。 俺に仕えるのは嫌なんだろうが」
「誰かがやらなければならないのですから、好き嫌いは言ってられません」
「ふん・・・まぁ、お前が引き受けてくれたのは行幸だった。正直、助かってる」
(2021年6月16日 執筆)
「ありがとうございます。では、もう一言だけ進言させて戴きます」
「・・・なんだ?」
「加賀さんが来てしまった以上、提督はだだでは済まないと思います。どうか気を引き締めて事に当たられる事を進言します。死なないで下さいね」
「俺が殺されるの前提かよ・・・・というか、お前にとってはその方がいいんじゃないのか?」
「まさか。例えあなたのような方が提督であっても、死んでいいとは思いません。そんな風に平気で思える方は限られています」
しれっと毒舌を吐く妙高
「お前もなかなか言うな・・・・ま、俺もそうはっきり言ってくれた方が気が楽でいい。意外とお前とは相性がいいのかも知れんな」
「・・・・殺しますよ?」
「わかった、冗談だ。そう怖い目で睨むな・・・本当に人一人殺しかねない目をしてるぞ?」
「言葉には充分気をつけて下さいと、進言しておきます」
「で、俺を殺しかねないやつって、他に誰がいるんだ?」
「そうですね・・・・まず二航戦のお二人はガチですね。それと利根さんもそうかなぁ・・・あとはそう、神通さんも確実に来ますね。駆逐艦では、ぬいちゃんかなぁ・・・・それと・・・」
「ちょ、ちょっと待て! 結構いるじゃないか!」
「いずれもこの鎮守府に縁のある方たちですから・・・・・・・提督、詰んでますね」
「マジか・・・さっさと実績挙げて、こんな鎮守府すぐにオサラバした方が賢明だな」
「そうして下さい。提督が一日も早くここを出て行けるよう、協力しますよ?」
「・・・お前・・・澄まし顔で結構キツい女だな・・・・」
「ありがとうございます」
「いや・・・褒めてねえよ・・・」
「ところで提督、加賀さんの事はちゃんと調べてありますか? 対応の仕方とか?」
「いや、それはもういいだろう。赤城とは話がついてるんだし、問題なかろう。どのみちアイツを使う予定はないしな。その為に今まで準備してきたのだ」
「・・・・・あ~・・・うん・・・そう・・・ですね」
「・・・何だ? 何が言いたい? はっきり言ってみろ! 不安になるだろ!」
「あの人・・・とても難しい方なので、対応を誤ると即詰みもありえますので・・・」
「そういう事は、もっと早く言えないのかお前・・・・」
(2021年8月14日 執筆)
と、その時
「コン、コン!」
執務室のドアをノックする音が・・・
《・・・来たっ!》
ちょっとだけビビった某であったが、努めて平静を装い声をあげる
「・・・・入れっ!」
「失礼します。一航戦、加賀、只今着任しました」
《・・・只今・・・だと?・・・・・嘘をつけ!》
よくもまあ、ぬけぬけと・・・と一瞬思ったが、妙高の進言も何だか不気味だったので、そこはスルーした
「おう、ご苦労・・・貴様が加賀か。私が当鎮守府の提督である。貴様の配属については追って通達する。もう下がってもいいぞ?」
《あらら、もうやっちゃってますよこの人・・・》
妙高視点で見たら、どうやら某は《地雷》を踏んだらしい。巻き添えは御免とばかり、妙高は某を無視する事にした
「加賀さん、お久しぶりです」
「・・・久しぶりね・・・妙高さん・・・少し・・・感じが変わったかしら?・・・」
「ええ、まぁ・・・留学先でポーラにあてられまして・・・その影響ですかね?」
「・・・・ちょっと、違うのかしら?」
「さぁ・・・どうでしょうか・・・・いずれ邂逅する機会もあるでしょうから、ご自分で確認された方がよいかと」
「・・・・そう・・・・・それは楽しみね・・」
某は、まるで宇宙人でも見ているかのように二人の謎のやりとりを見ていた
《・・・何だ? 何の話をしてる?・・・いずれにせよ、ここにはいない方がよさそうだ》
『二人は積もる話もあるようだから、私は退散するとしよう』
そう言いながら二人を後に退出しようとする某であったが・・・・
「・・・お待ちなさい!」
加賀だった
「な、何だ? どうした加賀」
「・・・あなたには、聞きたい事があります」
何だか怒ってるっぽい
「な、何だ?」
「提督・・・私の着任が三ヶ月も先延ばしにされたのは何故かしら?」
「え?」
「・・・え?・・じゃありません。ちゃんと答えなさい」
完全な上から目線である
いつもの某なら、「貴様に答える必要はない!」とか言って突っぱねる所だが、先日は赤城に死ぬ程怖い目に遭わされたばかりである。妙高の歯切れの悪い態度といい、今日の所は無難にやり過ごした方がよさそうだった
「あ・・・と・・・それはだな、お前程の大物を受け入れるのには準備が必要だったのでな・・・まぁ、そんな感じだ」
「・・・そう・・・それじゃ、準備はもう出来ているのね・・・」
「あ、ああ・・・・一応な・・・・」
「・・・何の・・・準備なのかしら?・・・」
「え?」
「・・・何の準備をしていたのかを聞いています」
「ま、まぁ、色々とな・・・」
言えるわけがなかった。加賀抜きでも鎮守府を回していけるように体制を整備していたなどと・・・・・・何しろあの大食漢がもう一人増えるのである。赤城との約定を守りながら、同時にニートを二人も養うため、効率的な鎮守府運営を模索していたなどと・・・・言えば、多分殺される
早い話が、加賀は二人目の『退役』枠確定だったのである
(2021年8月26日 執筆)
「・・・・言葉が通じないのかしら? 言ってわからないのなら、躾が必要ね・・・」
そう言うと加賀は某にずいと詰め寄る。その様子を見て、妙高が間に入る
「加賀さん、提督はあなたがお腹を空かさないよう、色々と尽力されていたのですよ」
「・・・・そう・・・・それは関心ね・・・・・・・でも、私は提督に聞いているの・・・・・これが最後です・・・・答えなさい・・」
加賀にここまで詰め寄られ、某は確信した
《・・・間違いない!・・・コイツはヤバいっ!・・赤城と同類だっ!!!・・・どうする?・・・どうするっ!?》
《・・・同類!?・・・そうか・・・・結局の所・・・・・》
「・・・・加賀・・・俺はお前を使う気はない・・・・無論、始まりの艤装展開も受けさせる気はない・・・・タダ飯喰らいの貴様を養うために、運営計画の整備を見直していた。その為の三か月だ・・・これでいいか?」
《腹をくくるしかないって事か・・・死んだかな? 俺・・・》
「・・・・思ったより、胆が据わっているのね・・・・」
「そんなわけあるか! 逃げられそうにないから居直っただけだ!」
「・・・面白いわ・・・・あなた・・・・・・・でも・・・・・・」
「パーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!」
強烈な張り手一発で、某は執務室の奥まで吹っ飛んでゆく
「・・・道すがら、深雪の大破進軍の話を聞きました・・・・あなたは・・・生きていてはいけない存在です・・・・・」
「・・・あ・・・・・・・が・・・」
「・・・赤城さんは、何故あなたを殺さないのかしら?・・・」
今回の赤城は、いつもとは少し様子が違う・・・・何かを・・・・覚悟を決めたような節がある・・・・・・
「・・・まぁ、いいわ・・・」
「・・・今はまだ、生かしておいてあげます・・・・・」
そう言うと、加賀は執務室を後にする・・・そして出掛けに・・・
「・・・・精々大人しくしていなさい・・・・私の・・・・気が変わらないように・・・・」
「・・・あの、提督ぅ~!・・・・生きてます?」
「・・・・・おま・・・え・・・な・・・・・・」
「良かった!・・・息してますね! 提督は運がいいですよ! あの流れは絶対殺されるパターンでしたし」
「・・・は・・・・はは・・・・これで・・・運がいい・・・のかよ・・・」
「それにしても、何故加賀さんは提督を始末しなかったんでしょうね? あそこで手を止めるような方ではないのに」
「・・・約・・定・・・・・・だ・・・・・・アレが・・・・効いてる・・・」
「・・・あぁ・・・それで!・・・提督、やりますね! 正直、舐めてました」
「・・そういうの・・・いい・・から・・・治療・・してくれ・・・・」
「あぁ、そうでした。済みません、忘れてました」
「・・・おまえ・・な・・・わざとだろ・・・」
妙高は大鯨を呼び、某の治療に当たらせる
《・・・あの時、加賀は間違いなく俺を殺す気だった・・・・だが、そうはしなかった・・・・》
《・・・アイツ・・・・赤城の意向を汲んで思い止まったんだ・・・・》
《とにかく・・・・助かったぁーーーーーーーーっ!》
忌憚のない、某の本音であった
程なくして、本年度の某鎮守府整備計画が実行に移された
それまで24名に限定されていた任務が、おおよそ全ての艦娘にその機会が与えられる運びとなった
だが、その中に鳳翔、赤城、加賀の名前はなかった
特に加賀は、【始まりの艤装展開】を受けられなかったため、只の一度も実戦を行うことなく、LV.1のまま退役扱いとなった。これは異例中の異例であった
そしてこれらの事実は隠蔽され、大本営には知られていないはずだった
赤城 04 佐世保沖海戦とティレニア海海戦(Ⅰ) に続く
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