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レンズ越しのセイレーン

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Mission
Mission4 ダフネ
  (3) ヘリオボーグ研究所総合開発棟14F 屋上(分史)~同(正史)

 
前書き
 常に選択しなきゃいけない。何を生かして何を殺すのか。でなきゃ何も守れない。 

 
 研究所の間取りを完璧に把握しているジュードを先頭に、屋上への入口を目指す一行。
 屋上に繋がる研究室を経由し、ドアを全開にする。

 雲間から射す陽光が短い間視力を奪う。目が鳴れてから観察すれば、タイルが敷き詰められ、柵に囲まれた屋上に、異様なものが佇んでいた。


源霊匣(オリジン)ヴォルト!」『ビリビリするやつだよー!』
「また作ったのかよ!」
「制御もできないのに…!」

 ふと、敵の正体におのおの仰天しているジュードたちを尻目に、ユティが小声でルドガーに――


源霊匣(オリジン)って、なに?」


 それなりに衝撃的な質問を投げかけてきた。

「……お前、源霊匣(オリジン)知らないのか?」

 ユティはこくこく肯く。

 純エレンピオス人のルドガーも詳しく理解しているとは言い難いが、ジュードの活動もあって全く知らないということはない。

 ――源霊匣(オリジン)黒匣(ジン)と異なり、精霊を殺すことなく、霊力野(ゲート)のない人間も精霊術を使える夢の装置。


 問い質す前に、源霊匣(オリジン)ヴォルトから雷が放たれた。射程には――エルとルルがいる!


 ルドガーより先にユティが動いた。ショートスピアを投げ、器用にもエルの前のタイルとタイルの間に突き立てたのだ。

 雷は即席の避雷針になったスピアに落ちる。ほぼ同時にユティはエルを抱えて転がって伏せた。その間4秒。(ひかり)より速かった。

 しかし、スピアに落ちなかった雷が、ルルを直撃してしまった。
 潰れた声を上げて倒れるルル。

「ルル!」

 もうひとりの家族を傷つけられた――ルドガーの中で感情のメーターが焼き切れた。

 ルドガーは双剣を抜いて吼え、紫電の球体に挑みかかった。








「うおおおおお!!」

 ルドガーが骸殻に変身し、黒い槍を紫電の球体に突き立てる。

 抜いた槍の穂先に刺さった黒い歯車が、パリン、と砕け散る。それを合図に世界がひび割れて崩壊した。



 暴走した源霊匣(オリジン)ヴォルトを止めるべく、ユティたちは全員で紫電の精霊に挑んだ。

 幾度となく電気ショックを浴びせられ、球転がしによる体当たりも食らったたが、特にルドガーとアルヴィンの銃撃が利き、源霊匣ヴォルトの動きを封じることに成功。トドメにルドガーが骸殻で時歪の因子(タイムファクター)を破壊した。

 全員が正史世界に生還した。

「ルル、しっかり!」

 落雷のダメージから未だ起き上がれないルルの横で、エルが翡翠の瞳を潤ませる。

『大丈夫っ。任せてー』

 エリーゼが反対側に膝を突き、治癒術を施し始める。

 ユティはエルの横に立った。

「エル、ルルは死なない。エリーゼが治せる。泣かないで」

 そう告げるや、エルはワンピースの裾をきつく握りしめて俯いた。

「……っき、…なかったの…」
「え?」
「さっき! 何でルルも助けてくれなかったの!? エルは助けてくれたのに、何でルルは…!」

 彼女は本気で怒っている。ユティの行動を、小さな体のありったけで責めている。

「よせ、エルっ。しょうがないだろう」
「あそこでルルまで助けに行ってたら、ユティだって危なかったんだよ」

 ルドガーとジュードに制止されてなお、エルはユティを睨んでくる。

「ごめんなさい」

 膝に手を置いて腰を直角に曲げて、頭を下げる。

「エルの友達守れなかった。ユティの力不足。だから謝る。ごめん、エル」

 頭を上げる。しゃがみ込む。目線の高さはちょうどエルと同じくらい。

「でもエル。これは知っててほしい。ユティは命が惜しいと感じたことは、10歳から一度もない。他人でも、自分でも。そう在るように育てられた」

 そして、ユティはそれを過酷とは感じない。そう在れと望まれ教育された思い出は、ユティにとってはむしろ誇りだった。
 父を初め何人分もの期待と希望をユティは背負って、今ここにいるのだ。

「ユティがルルのとこ行って、エルとルルを遠くに投げて、2度目の落雷をユティが代わりに受ければ、エルとルル両方が助かった。でもしなかった。確実とは言えないから。ユティの命を惜しんだんじゃない、エルの安全を惜しんだ」
「……ユティは、エルを守るためなら、ルルが死んでもいいって思ったの?」
「ワタシが身を案じるのはルドガーと、ルドガーの行動理念になるエル、アナタだけ。それ以外には気を回せない。今日みたいなこと、これからもある。だから、先に謝らせて。この先もエルを泣かせる選択をすることを」

 エルは裏切られたといわんばかりにユティを睨みつけたが、やがてくしゃっと顔を歪めて、背中を向けた。真後ろにいたルドガーが、エルの背を労わるように叩いた。

 ユティはそれを見届け、屋上の落下防止柵へと歩いて行った。
 
 

 
後書き
 オリ主がエルに怒られたけど開き直る話です。
 自分で書いていてオリ主がドライなのかウェットなのか分からなくなってきました。「皮肉屋なしゃべり方」が最初のコンセプトだったのですが、いつのまにか読経みたいな台詞回しに……何故?

 新事実。オリ主が正史に来たのは父親の思惑だけではないらしい。一体どのくらいの人たちがユティに未来の変更を願ったのでしょうね?

 そして、分史破壊後の場所。本当ならスタート地点に戻るのですが、今回は雰囲気重視で屋上に戻しました。設定に矛盾ありと思われた方、正しいです。申し訳ありません。 
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