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宝くじに当たって

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第一章

             宝くじに当たって
 この時波山理恵は自分程幸せな者はいないと思った、それで姉の千恵に語っていた。
「いや、宝くじに当たるなんてね」
「運がいいわね」
「全くよ」
 世界的なデザイナーである姉に笑顔で話した。
「本当にね」
「おめでとう」
 姉は妹に彼女も笑顔になって言った、二人共面長で色白である。目は小さく細めであり千恵は黒髪を長く伸ばし理恵は後ろで団子にしていて丸眼鏡をかけている。
「旦那さんには話してるわよね」
「勿論よ、ただ子供達にはね」
「話してないわね」
「あとはお姉ちゃんだけよ」
「他の誰にもお話してないわね」
「だってこうした時って迂闊に話したら」
 居酒屋の個室の中で話している、話す場所も選んでいるのだ。
「わらわらと来るんでしょ」
「親戚や知り合いがね」
「知らない様な人が」
「よく言われるわね」
「だからよ」 
 理恵は肴のホッケに箸をやりつつ話した。
「私もね」
「そこは気をつけてなのね」
「お姉ちゃんは口が堅いしお金あるからね」
「世界的なデザイナーでっていうのね」
「言ったの。お姉ちゃんならお金の無心しないでしょ」
「宝くじ貰える位はあるわよ」
 実際にとだ、姉も答えた。
「税金対策もしているけれどね」
「だからお話してるの」
「そういうことね」
「絶対に誰にも言わないしね」
「無心もしないから」
「それでよ。お金貰う時も他言しないことと慎重に使う様にねってね」
 その様にというのだ。
「注意されてるし」
「それでなのね」
「余計にね、だからね」
「私にはお話したのね」
「旦那は金遣い荒くないというかちょっとあればね」
 金がというのだ。
「貯金するタイプだし」
「あの人はお金より食べることね」
「お腹一杯ね。高いお店も行かないし」
「お家でもいいわね」
「後は読書位しか趣味ないしやっぱり口堅いから」
「大丈夫ね」
「だから宝くじ一等のお金は」
 それはというと。
「貯金してね」
「慎重に使っていくのね」
「そうするわ、当たったってわかったら本当に面倒だから」
「わらわらと無心に来ると思うと」
「絶対に嫌だからね」
 理恵は強い声で言った、そして実際にだった。
 生活は変えず仕事も続けた、そのうえで宝くじが当たったとは誰にも言わず夫と子供達と共に暮らしていった。
 確かに生活は変わらず金の使い方も同じだった、しかし。
「波山さん変わった?」
「何でも凄く余裕ある様になったな」
「もういざって時はっていうか」
「そんな態度になったな」
「とっておきの切り札があるみたいな」
「それを何時でも出せるっていうか」
 そうしたというのだ。
「余裕が出来たな」
「物腰でも口調でも」
「何かあったのかな」
「いいことでもあったのかな」
 周りは宝くじのことは一切言わない理恵を見て思った、そして夫の和之普通のサラリーマンで色黒で痩せた顔と小さな目を持つ黒髪を上だけ伸ばし真ん中で分けている一八〇の長身を持つ彼もだった。
「何か前よりいいお店に行ってない?」
「一ランク位」
「買う本も多くなったし」
「羽振りよくなった?」
「少し」
「あれっ、そうかな」
 夫は周りの言葉に気付いて首を傾げさせた。
「何も言ってないけれど」
「私も言われてるわ。実際に出費がね」
 理恵はその夫に話した。 
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