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息子に言われて

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第一章

               息子に言われて
 まだ五歳の男の子である梶達哉は家で自分の両親のアルバムを見て言った。
「知らない人がずっと写ってるよ」
「知らない人?」
「誰かしら」
 父の元信も母の法子も我が子、上の子で下の娘で長女である茶美を抱きながら応えた。茶色の長い髪の毛で大きな睫毛の長いはっきりした目で小さなピンクの唇で丸々とした妻が抱いている。夫は黒髪をショートにしていて面長で薄い赤の唇と高い鼻と大きな耳を持っている。背は一七五位で妻より二十センチは高くマッチの様な体型である。
「そんな人写っていたかしら」
「誰なんだろうな」
「この人だよ」 
 息子が指差した人はというと。
 すらりとしてやや小柄で面長の若い女性だった、その女性を指差して言うのだった。
「よくお父さんと一緒にいる」
「えっ、それは」
「その」 
 夫婦でその人を見てバツの悪い顔になった。
「お母さんよ」
「昔のな」
「達哉が産まれる前のね」
「結婚する前としたてよ」
「嘘だ、だってお母さん太ってるじゃない」 
 息子は邪気のない顔で言った。
「豚さんみたいに」
「豚って」
 子供で息子なので怒るに怒れずだ、母は困惑した。
「それはちょっと」
「丸々と太ってね。お相撲さんみたいだよ」
「今度はそれ?」
「そんなに太ってるのに」
 邪気のないまま言うのだった。
「お母さんの筈がないよ」
「そう思うのね」
「そうだよ、誰かなこの人」 
 アルバムを見ながら言う、その後で。
 法子はまるでこの世の終わりの様に落ち込んだ、それで夫に言った。
「ショックだったわ」
「達哉にも悪気はないよ」
「子供が言ったことだからね」
「うん、だからね」
「それが余計にね」
 頭を項垂れさせての言葉だった。
「傷付いたのよ、子供生まれてね」
「急に太ったっていうんだね」
「子育てはしてるけれど」
 それでもというのだ。
「ずっとお家にいて運動してなくて甘いものはね」
「ずっと食べてるね」
「そうしたらこうなったから」
「それでなんだ」
「言われたのね、実際結婚した時から二十キロは太ったから」
 そこまでになったというのだ。
「言われるわね」
「だから子供の言うことだよ」
「それで余計に傷付いたの、これはね」
「これは?」
「痩せないとね。、食生活考えて」
 そうしてと言うのだった。
「それでウォーキングもね」
「はじめるんだ」
「近くにジムもあるし」 
 こちらの話もした。
「水泳もね」
「するんだね」
「少しでも身体動かして」
 その様にしてというのだ。
「痩せるわ」
「そうするんだね」
「達哉にあんなこと言われない様にね」
 我が子の言葉だから尚更傷付いた、それでだった。
 法子はその時からダイエットに取り組んだ、甘いものは控えて毎朝ウォーキングをしてジムで水泳もしてだった。
 痩せる様にした、するとだった。 
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