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つい出た若き日

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第一章

                つい出た若き日
 銀座の老舗の店でママをしている徳田麻美子は着物がよく似合う女性である。垂れ目で優しい感じの気品と色気が両方共備わった顔立ちで一七〇近い長身で年齢を感じさせないスタイルだ。いつも奇麗な黒髪を見事にセットしている。
 誰に対しても優しく優亜であり穏やかである。彼女が怒ったところを誰も見たことがない。
 その為店の常連である某大企業の重役である古屋和彦はいつも店のホステス達に話していた。
「古い表現だけれど菩薩様だね」
「うちのママはそうですよね」
「誰に対しても優しくて」
「そして気品があって」
「素晴らしい人ですよね」
「あんないい人はいないよ」
 五十を超えているがまだ若々しい、しっかりした眉でやや垂れた目には穏やかだが確かな光がある。やや面長であり頬はすっきりとしていて口元はしっかりしている。一七三程度の背でジム通いで鍛えらえている身体はまだまだ若々しい。
「本当にね」
「全くですよね」
「私達もそう思います」
「うちのママは神様です」
「そう言うしかないです」
「一体どんな人生を送ったらああした人になるんだろうね」
 古屋はジョニーの黒をロックで飲みつつ言った。
「本当に」
「やっぱり凄く徳を積んできた」
「そうなんですかね」
「二十三の時にこっちに来られたそうですが」
「このお店に」
「その時からです」
「ああした人だったそうですよ」
 ホステス達は古屋に話した。
「ですから余程素晴らしい人だったんですよ」
「それまでも」
「立派な両親のお家で育って」
「それでいい人生を送ってきたんでしょうね」
「そうだろうね」
 古屋もそうだろうと頷いた、彼以外の店の常連客もホステス達も皆そう思っていた。そんなある日のこと。
 店には相応しくない若いチンピラといった風の男が来た、ホステス達はその彼を見て言った。
「元ボクサーの日目堕じゃない」
「碌でもない試合ばかりしていた」
「いつも態度が悪かった」
「スポーツマンシップもない奴じゃない」
「あんな男がこんな店に来るなんて」
 古屋も彼を見て眉を顰めさせた。 
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