東方絆日録 ~ Bonds of Permanent.
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待ち受ける者たち(大空翔、小泉純一)
純一:親切な八百屋さん
ここは人間の里。
単に「人里」とも呼ばれ、幻想郷に住む大多数の人間がここで生活している。商いで生計を立てる者が多く、さまざまな商店がいくつも建ち並んでいた。
人里の入口に近いところに「八百長《やおちょう》」という八百屋がある。店名はこの八百屋の店主、小泉純一《こいずみ‐じゅんいち》がかつて外界で内閣総理大臣ーーーつまり日本政府のトップ=長《ちょう》ーーーをしていたことに由来する。決して不正を働いているわけではない。
その証拠として、純一が真面目な性格であることや「八百長でいつ買い物をしても新鮮な野菜が安く買えるので嬉しい」という顧客の声をたびたび耳にすることが挙げられる。
ちなみに売り物の一部は純一が自ら畑で丹念に育てた野菜だ。
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純一は今日も朝早くから店を開けていた。売れ行きも好調で、夕方にはそのほとんどが売り切れていた。
閉店間際、青いワンピースのような服を着た銀髪の少女が店を訪れた。上白沢慧音《かみしらさわ‐けいね》ーーー「志学館」という寺子屋で教師をしている半人半獣の少女で、人里の守り神的存在でもある。純一とは彼が幻想入りした当初からの付き合いだ。
慧音「こんばんは」
純一「これはこれは上白沢先生。お仕事お疲れさまです」
慧音は勤務中はいつも青い角帽を被っている。「仕事中かどうか一目で分かるようにするため」がその理由だそうだ。
ちなみに今は被っていない。
慧音「小泉さんも遅くまでご苦労さまです。この白菜と長ネギを下さい」
純一「ありがとうございます、340円です」
慧音は白菜2把と長ネギ1束を買い求めたあと、こう切り出した。
慧音「今日、所用で稗田《ひえだ》の家へ行ったら外界人に会いましてね…」
純一「ほう、それは興味深い話しですなあ。閉店時間も過ぎましたし、奥でゆっくり聞かせてもらいましょうか」
純一は慧音にも手伝ってもらって店じまいをした後、奥で話しを聞くことにした。
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小泉邸は店舗と住宅が繋がっており、店舗部分のすぐ隣が居間となっている。その居間に2人はいた。
慧音「今日、資料を借りに稗田の家に行くと博麗の巫女と松上敏久《まつがみ‐としひさ》という外界の青年が来ていましてね。私と阿求を含めた4人で色々な話しをして、そして今ちょうど帰宅する途中だったのですよ」
純一「それはそれは。さぞかし賑やかだったでしょうなあ…羨ましい限りです」
慧音の話しを純一は静かに聞いている。
ちなみに『阿求』とは幻想郷の歴史に関する書物を編纂している稗田阿求《ひえだのあきゅう》を、『博麗の巫女』とは幻想郷の事実上の管理人で博麗神社の巫女をしている博麗霊夢《はくれい‐れいむ》を指す。
純一「かくいう私も外界の出身ですからね。松上君にはぜひ会ってみたいものです」
慧音「小泉さんは明日が定休日でしたよね」
純一「ええ、そうですよ」
慧音「実は私も明日は休日なのです。どうでしょう。明日、彼が住んでいる博麗神社へ一緒に行きませんか?」
純一「いいですね。明日は何時にどこで待ち合わせしましょうか?」
慧音「10時に寺子屋というのはいかがでしょう」
純一「分かりました。では明日、楽しみにしておりますぞ」
慧音「私もですよ。では、これにて失礼します」
純一「ええ、お気をつけて」
外はもうすでに真っ暗である。慧音は雪のちらつくなかを小走りで帰っていった。
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翌日、二人は博麗神社に続く長い石段を上っていた。昨夜から降り続いた雪で40cmほどの積雪がある。
純一「ふう、この石段は年寄りには辛いものがありますなあ…。せめて手すりぐらいはつけてほしいものです」
慧音「あと少しですから頑張って下さい。ゆっくりでいいですからね」
ようやく石段を上りきった。神社は参道を除いて雪ですっぽり覆われている。
二人は鳥居の前で一礼し、それから神域内に入っていった。
まずは手水舎で手と口を清める。そして次に拝殿に向かい、賽銭を賽銭箱へ入れた。
ちなみに賽銭は神様へのお供え物なので投げ入れるのではなく、お金を投入口にそっと置いて賽銭箱の内部へ滑らせるように入れるのが本来の作法である。
チャリン、チャリンと賽銭が落ちる音が聞こえた直後、目にも止まらぬ速さで紅白の巫女装束もどきを着た少女が賽銭箱の後ろに現れ、スライディングしながら土下座した。
彼女が博麗神社の巫女、博麗霊夢である。
霊夢「毎度ありがとうございます。お賽銭を入れて下さるあなた方は神様です!必ずや幸運が訪れることでしょう‼︎」
慧音「霊夢、その台詞はもう耳にタコができるほど聞いた。いいから落ち着け」
慧音が諭すと霊夢は顔を上げた。
霊夢「あら、慧音に山羊さんじゃない。いらっしゃい」
霊夢は純一を山羊《やぎ》さんと呼んでいた。彼の顔が山羊に似ているのがその理由らしい。
純一「どうも霊夢さん。しばらくぶりですな」
純一は霊夢とも顔見知りである。時々こうやって博麗神社に遊びに来ているからだ。
霊夢「ここで立ち話しするのもなんだし中に入って。お茶ぐらい出すわよ」
ーーー霊夢は2人を中へ案内した。
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