東方絆日録 ~ Bonds of Permanent.
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招かれし者(西村早苗)
西村早苗の冒険②
詰所を後にした(西)は登山道をひたすら下りていった。
先ほどの滝から流れてきた水が川となって道に寄り添うように流れており、川沿いにはモミジやカエデの木が群生している。紅葉の時期はさぞかし綺麗なことだろう。
しばらく川を見ながら歩いていると、人が川の畔《ほとり》で何かしていた。少し気になったので声をかけてみる。
(西)「すみませーん!何をされてあるんですかー?」
?「今そっち行くから待っててー!」
その人が上がってきた。青緑色のポケットがたくさん付いた服を着て、青いリュックを背負った少女だった。
?「おや、見かけない顔だね。それで何だって?」
(西)「いま、何をしていらしたんですか?」
?「ああ。私が開発した魚群探知機の性能を試していたのさ」
(西)「開発…。技師の方ですか?」
にとり「ただの機械好きさね。私は河城《かわしろ》にとり、この辺に住んでる河童だよ。よろしくね……ええと、名前は?」
(西)「西村早苗、昨日来たばかりの外界人です。よろしくお願いします」
にとり「私にはタメ口でいいよ。で、いま早苗はどこに住んでいるの?」
(西)「守矢神社たい。昨日、魔理沙さんに連れられて来たんよ」
にとり「へえー!それじゃあ今、守矢神社には二人の“早苗”がいるってこと?」
(西)「そういうことやね…あっ、そういえばさ」
にとり「何だい?」
(西)「外界に“ニトリ”って名前のホームセンターがあるんやけど、にとりはそのニトリとなんか関係あると?」
にとり「分かんないなあ、そもそもその“ホームセンター”とやらが何なのかすら知らないし」
(西)「かくかくしかじか」
にとり「なるほど…。香霖堂《こうりんどう》より便利が良いかもしれないねえ」
(西)「香霖堂?」
にとり「魔法の森の外れにある万屋《よろずや》の名前さ。一度行ってみるといい、なかなか面白いところだよ」
(西)「ふうん」
にとり「そうだ、私の家に来ない?面白いものを見せてあげるよ」
(西)「是非とも!」
ー
ーー
ーーー
にとりの家はかまくら状の小さな家だった。彼女の発明品や丸められた巻物のようなもの(恐らく設計図)が所狭しと置かれている。
(西)はふと魔理沙の家を思い出し、魔理沙が懐かしくなった。
にとり「ーーーそしてこれは私が香霖堂で買ったものをさらに改良したイタズラ用“のび~るアーム”。これの長所は赤外線を利用しての遠隔操作が可能なこと。短所はバッテリー容量が不足ぎみですぐ電池が切れてしまうことかな」
(西)「にとり、あら何《なん》ね?」
(西)は壁一面に貼ってある設計図らしきものを指差した。
にとり「ああ、あれは以前この近辺にダムを造ろうという話しが持ち上がったときに私が書いたダムの設計図。だけどダムの建設中に水脈を切ってしまったのか、水が大量に流れ出して辺り一帯が水没してね。結局その計画は頓挫してしまったんだ」
(西)「ええっ⁉︎ にとりや他の作業員の人たちは大丈夫やったと?」
にとり「私もそうだけど作業員は全員河童でね、泳ぐことができたから全員無事だったよ。…とはいえ、あんな事故はもうこりごりかな」
(西)「それはとんだ災難やったね…」
そこで(西)は、にとりが興味を惹きそうなものを持っていたことを思い出した。
(西)「そうたい!これ要らん?」
そう言って(西)がポケットから出したのはもう使わなくなった携帯電話だった。古びてはいるが通話性能や画質、音質などは申し分なく、まだまだ現役で使える。
携帯電話を見たにとりの目が輝いた。
にとり「おお、これは香霖堂でも手に入らなかったレア物中のレア物じゃん!本当にもらっていいの?」
(西)「うん、よかよ。どうせもう使わんし」
にとり「ありがとう!何年か前に“電波塔”なるものが幻想入りしてきてね。電話を持てば電波塔を通じて遠くの相手とも会話できるということがこの前ようやく判ったんだけどさ、いかんせんその電話がなかなか手に入らなかったんだよ。早速これで試作品を作ることにしよう!いやあ、嬉しいなあ‼︎」
にとりは、まるで欲しかったおもちゃを与えられた幼児のように携帯電話を手に入れた感想を嬉々として話している。
『携帯をとっておいてよかった』と(西)はつくづく思った。
ー
ーー
ーーー
(西)「そしたらそろそろ行くね」
にとり「これからどこに行くの?」
(西)「とりあえず山を下る…。今はただそれだけかな」
にとり「気をつけてね…また来なよ。今度は今以上にもっと発明品が増えていると思うよ!」
(西)「ありがとう。じゃあまたね」
ーーー(西)はさらに山を下っていった。
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