絶撃の浜風
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外伝 赤城編 02 赤城禁止
前書き
絶撃シリーズ 赤城編 第二話です 本編の背景に深く関わる赤城のストーリー、その始まりです
(2020年4月18日執筆)
これは、浜風が某鎮守府に赴任するよりずっと前の・・・・十数年前のお話
赤城が艦娘として覚醒したのは今回で三回目だった
過去二回はいずれも糞提督に当たり、ろくでもない采配で振り回された挙句、最後は任務で使われることもなくなり、間宮や鳳翔の店で殆どの時間を過ごすというのがお約束になっていた
今回の覚醒は某鎮守府だった。14歳で赤城としての記憶を全て保持したままの覚醒だった
人から艦娘へと覚醒し、記憶と人格の融合が、赤城の中でゆっくりと進行していた
いつもとかわらないように見える赤城であったが、彼女の頭の中で何かが・・・・ある想いが渦巻いていた・・・・・
「・・・あぁ、そういえば・・・そうでしたね・・・」
某鎮守府へ向かう道すがら、赤城はぼんやりとではあるが、何かを思い出していた
「・・・・正直、待つのはもう面倒になりました。 今回がダメなら・・・・・・・もう、いいですかね?」
赤城が言うところの、「もういい」とは、一体何を指しての事だったのか・・・・・
この時点では、まだ誰も・・・・知らなかった
赤城が就役した時点での某鎮守府には、空母は「鳳翔」と「龍驤」しかおらず、数少ない空母の一人だった鳳翔は、「居酒屋 鳳翔」を開く余裕などなく、バリバリの現役で「秘書官」と「機動部隊旗艦」を兼務していた
その日も二人は鎮守府近海の戦闘哨戒出撃任務で不在であった。帰投後も予定が詰まっており、彼女たちと邂逅するのは任務の時までお預けになりそうである
執務室で着任の挨拶を終えた赤城は、その足で「甘味処 間宮」へ向かい、お櫃アイスをおたまでもしゃもしゃと頬張りながらぼんやりしていた
「あいかわらずですね、赤城さんは。やっぱ和みますね」
そう言いながら間宮はどんぶりでお茶を差し出す。間宮もまた、自身の記憶を全て保持したままで覚醒、給仕していた
「でも、何だか前と様子が違いますね? 何かあったんですか?」
何代にも渡って赤城を見てきた間宮は、何かを感じ取っていたようだった
《・・・間宮さんも・・・案外鋭いですね・・・・・でも・・・・まだ・・・・・・・》
出されたお茶をすすりながら、赤城は逡巡する
「間宮さん、実は・・・・・」
「・・・はい・・」
「・・・いえね、艦娘として覚醒するのが少し早すぎたのではないかと」
「あら、それはどうして? 私は赤城さんに逢えてとても嬉しいですけど?」
「・・・私も、こうして間宮さんのアイスをお櫃でがっつり頂けるのは本当に嬉しいのですが・・・」
そういいながら赤城はおたまでアイスをがっつく
《あれでよく頭が痛くならないのかしら?》
見慣れた光景ながら、いつも間宮はそう思う
赤城が某鎮守府に着任するらしいと聞いて、慌てて仕込んだ「赤城専用お櫃アイス」。冷凍庫の増設も大本営勤務の明石さんに発注済みである。今のストックではすぐに足りなくなってしまうのはわかりきっていた
ましてや今は「居酒屋 鳳翔」が無期限休業状態にあるため、そのしわ寄せがすべて間宮にのしかかり、赤城一人増えただけで、【間宮】の食材の消費量がそれまでの倍近くに及ぶのは火を見るよりも明らかであった
「私としては、鳳翔さんのところでがっつりご飯を頂いて、ついでにつまみ食いして鳳翔さんにこってり絞られてから間宮さんのアイスを別腹でいただく、というのがライフワークなのですが」
「・・・ライフワークですか・・・(汗)」
思わず突っ込みたくなる気持ちを抑えて、間宮は続けた
「確かに、今、鳳翔さんはとてもお忙しい身の上ですから、赤城さんが元気ないのも仕方ないですね~」
「・・・まぁ、それだけじゃないんですけどね・・・」
「?」
「私、これでも覚醒する前は普通に小食だったんですよ。家が《赤城》の家系だとは聞いていたんですが、ホント、私あんまり食べない方だったんで、自分は関係ないな~多分、とか思ってたんですが・・・ちょっと、間宮さん、ホントなんですから、そこ笑うところじゃありません!」
笑いを堪えながら間宮は答える
「・・っつ、ご、ごめんなさいっ、つい・・・(笑)」
少し拗ねたように赤城は続ける
「でね、久しぶりの《赤城》誕生って事で両親が大喜びしまして、お祝いに食事に行こうって事になりまして・・・」
そこまで聞いて、間宮はだいたいの事情を察した
「何でも好きな物を、好きなだけ食べてもいいぞって両親が言ってくれまして、それで私としてはその日はお寿司が食べたい気分だったんですよ。それで、実家近くで一番美味しくて一番お値段がお高いって評判のお店へ行きまして・・・・」
「それは、ご愁傷様でしたね・・・・ご両親が(汗)」
「まぁ、私は当時小食だったんで、両親も軽く考えていたんだと思います。てか、失念していたんでしょうね、《赤城》の事を」
もう既に、間宮は笑いを必死に堪えてぷるぷるしていた。赤城もそれに気付いて幾分拗ねてはいたが、構わず続けた
「私にとっては、それはもう目くるめくような素晴らしい体験でした。あの日の事は、一生忘れないと思います」
「だって、だってですよ、大好物の美味しいお寿司を、食べても食べてもどんどんお腹が空いていくんですよ。もう美味しさの無限ループって言うんでしょうか、永久に美味しいものが食べ続けられる喜びを知った瞬間でした!!(ふんすっ!)」
興奮気味に赤城は熱気を帯びて語り続けた。間宮はもう爆発寸前だった
「・・・それで、気が付いたらそのお寿司屋さんの食材を全て食べ尽くしてしまいまして・・・・その・・・お値段がですね、とんでもないことになってまして・・・・・(大汗)」
「父が、慌ててコンビニでお金を卸しに行きまして、母は信号機みたいに赤くなったり青くなったりしてました。お店の親方は艦娘に理解のある方でして、《お祝い》だからって事で、半額に負けて貰いました」
「それからが私にとって結構な修羅場と言いますか、父は感情を押し殺して、『今日はお祝いだから仕方ないとして、今後毎日こんなに食べられては家計が破綻する』って言われまして・・・・」
「その、要は口減らしといいますか、さっさと鎮守府に行けって言われて、家を追い出されまして・・・」
しょんぼりしながら赤城は事の顛末を語り終えた
間宮が、吹き出しそうなのをすんでの所で堪えられたのは、赤城のお笑いエピソードに耐性があったからに他ならない・・・・はずであった
「それは、大変でしたね。赤城さんが人一倍・・・十倍?・・・食べるのは仕方がない事なのにね・・・・・・・ぷ」
「いえ、お店の食材食べ尽くしたんで二百倍位だと思います。翌日からそのお店に《赤城禁止》の張り紙がしてありました(涙)・・・・あのお店でもうお寿司が食べられないと思うと、もう・・・(涙)」
「・・・・ぷーーーーーーーーーっ!! も、もうだめぇーーーーーーーーーーっ!!」
流石に堪え切れなくなり、間宮は吹き出してしまった
「酷いですよ間宮さん、私、こんなに悩んでるのに・・・」
「ごっ、ごめんなさいっ・・・・ぷぅ~っ!!」
《やっぱり、赤城さんはいい。ホントに和みますね》
また、新しい鎮守府が始まるんだな、と間宮は感慨に耽った
《・・・・ホント・・・・・こんなに笑ったのは久しぶり・・・・》
空になったお櫃を下げながら間宮は俯く・・・・・
《赤城さんなら・・・・何とかしてくれるわね・・・・・・きっと・・・・》
この時の赤城はまだ知らなかった
この某鎮守府に渦巻くどす黒い闇・・・・・
だがそれは・・・・この某鎮守府を覆いつくす嵐が訪れる前の・・・・・・ほんの一時の凪に過ぎなかった
赤城 03 一航戦暗黒神話Ⅰ に続く
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