マスコットから見た日本シリーズ
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第八章
「やった!」
「やったぞ!」
「勝ち越しだ!」
「遂に勝ち越したぞ!」
死闘の末に勝ち取った一点だった、皆川端さんを抱き締めたくなった。ベンチに帰って来た塩見さんを皆で笑顔で抱き締めた。
僕もその中にいた、そうして川端さんを熱い目で見た。いつもは静かな川端さんが一塁ベース上で笑顔でいた。
後は十二回裏を抑えるだけだ、マクガフさんはマウンドに上がる時に僕と川端さんそして監督に笑顔で言った。
「後は任せてくれ」
「はい、あと三つですね」
「そうだ、あと三つ俺が取る」
アウト、それをだ。
マクガフさんはこのことを約束してくれてマウンドに上がった、もう第一戦での不安な感じは微塵もなかった。
マクガフさんはランナーこそ出したが最後のバッターをセカンドゴロに抑えてくれた、そして今シーズン最後のボールがミットの中に収まった時に。
ヤクルトの日本一が決まった、この瞬間僕達ヤクルトを愛する者達は文字通り跳び上がった。そのうえで。
喜びを分かち合った、僕はつば美と一緒にナインの皆と抱き合いつつグラウンドに出た。その真ん中に出て。
監督さんを胴上げした、待ちに待ったその時を迎えた。僕は監督さんを胴上げする皆を涙を流しながら見守った。
気が抜けなかった、けれど負ける気はしなかった。皆希望を見据えて勝利に向かって一丸となって勝ち取った、そうした日本一だった。
本当に多くのオリックス有利という言葉が出た、それはヤクルトが三勝しても続いた。僕はいつもその言葉にそんなことはないヤクルトを甘く見るなと思った。
けれどその多くの言葉を覆しての日本一だった、そのことがどれだけ嬉しいか。これまで何度か日本一を経験してきたけれど今回の喜びはひとしおだった。
最高のシーズンで最高のシリーズだった、僕は日本一を受けて心から思った。最高のナインと最高のファンと最高の監督さんで成る最高のチームがそうした野球を創ってくれた。
僕はこのことをヤクルトのマスコットとして誇りに思う、そのうえでフリーエージェントを決意した。けれど僕の心の場所は一つしかない。
東京ヤクルトスワローズだ、弱い時もあるけれどそれでもいつも明るく前向きで一つになっているチームだ。このチームこそが僕の心の場所だ。
このことは何があろうと変わらない、僕はこのことを心の中で確かめて今も神宮にいる。そしてこれからここからヤクルトと共にいるのだ。このことだけは変わらない。
マスコットから見た日本シリーズ 完
2021・12・29
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