お医者さんがいなくなって
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第三章
「村の人達が証拠を隠して特に村長さんがです」
「あの人がですか」
「どうにもならなくて。あちらの人達がやったっていう確かな証拠もないですね」
「はい」
田村は残念だがという顔で答えた。
「それは」
「証拠も村全体で隠すしあっても」
例えそうでもというのだ。
「村全体でシラを切るので」
「だからですか」
「我々もどうにもなりません」
こう言うのだった、そして実際にだった。
警察も何も出来なかった、ここで田村は遂にだった。
「村を出よう」
「警察にもどうにもならないし」
「診察代が入らなくて暮らしていけないし」
このこともあってというのだ。
「嫌がらせもエスカレートするばかりだ」
「これ以上嫌がらせが酷くなったら」
「命も危ない」
「それでも警察は何も出来ないから」
「そうしよう、もう無理だ」
「そうね」
妻も頷いた、こうしてだった。
田村は夫婦で村を出た、すると鶴岡は彼を大学病院に呼び戻したが彼に言った。
「ああした村もあるんだ」
「余所者を嫌ってですか」
「例え村の為に働いてくれる人でも」
「そうなんですね」
「だからあの村には医師もすぐに逃げてだ」
「他の人達もですね」
「逃げていくんだ」
そうなるというのだ。
「ああした場所もあるんだ」
「このままだとあの村は」
「ああ、どうにもならなくなるな」
「只でさえ過疎地になっているのに」
「それでもな、わかっていないんだ」
村人達はというのだ。
「そんなことすら、もう放っておくしかない」
「そうですか」
「人の好意を足蹴にする人には未来はないんだ」
鶴岡は最後はこう言った、そうしてだった。
田村に大学病院の方から村での診察代を出した、そのうえで彼に労わりの言葉をかけた。だがその後で。
田村は妻に話した。
「あの村は廃村状態らしいよ」
「そうなの」
「ああした村だからね」
「誰も寄り付かなくなって」
「そのうえで過疎が進んで」
今以上にというのだ。
「そうなっているよ」
「そうなのね」
「若い人はどんどん逃げて」
「そうした村だから」
「お年寄りばかりでね」
「その人達がいなくなって」
「もうどんどん人がいなくなって」
そうしてというのだ。
「廃村状態らしいよ、村長さんもお子さん達が出て行って」
「後を継ぐ人もいなくて」
「そうなっているらしいよ」
「そうなのね」
「あの村の為を思ってだったけれど」
「どうにもならなかったわね」
「それは仕方がないよ」
ああした村だからだとだ、田村は言った。そうしてだった。
彼等の仕事をしていった、その村がどんどん寂れていくのを聞きながらそうした。やがて村は誰もいなくなった。誰も寄り付かなくなったうえで。
お医者さんがいなくなって 完
2021・12・28
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