毎日お墓に
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第一章
毎日お墓に
イタリアのある田舎町に旅行で来たドイツ人のレオンハルト=シュミット、金髪をオールバックにしていて面長で青い目の光が強く腹が出ているが長身で筋肉質の身体の彼はこの時一匹で歩いている茶色の長めの巻き毛のダックスフントの様な小さな犬が一匹だけで歩いているのを見た。
飼い主がいないのかと思ったが首輪はしていた、そして。
一匹である場所に向かっている様だったのでついて行くとだった。
墓地に行ってある墓の前で立ち止まった、これはどういうことかと思って墓の近くにあった喫茶店に入ってドイツ訛りのイタリア語で聞くと。
喫茶店のおかみ、サラ=スコラと名乗った彼女は茶色の巻き毛で黒い目のビア樽の様な体格の中年女性が言ってきた。
「それうちの子ですよ」
「おたくの?」
「はい、この子ですよね」
「ワン」
見ればおかみの足下にその犬がいた、随分親しい感じである。
「この子フルミンっていうんですよ」
「その名前ですか」
「実は毎日父のお墓に参っているです」
「そうなんですか」
「父に拾われてずっと一緒にいて」
そうしてというのだ。
「父の名前はレオナルドっていいましたが」
「レオナルドさんにですか」
「それで入院している時はずっと家で待っていて」
シュミットにコーヒーを出しつつ話した。
「お葬式の時はずっと私の傍で項垂れていて」
「それで、ですか」
「埋葬の時は連れて行かなかったんですが」
それがというのだ。
「しかし」
「それでもですか」
「自分で父のお墓の場所を探して。埋葬された次の日からです」
「毎日ですか」
「父のお墓に参っています」
「そうなんですね」
「いい子です」
おかみはこうも言った。
「本当に」
「大事にしてもらったことを忘れないで今も慕っている」
「だから私も家族もこの子の気持ちを大事にして」
「毎日ですね」
「行かせています、これからも」
「そうですか」
「ええ、ずっと」
こうシュミットに話した、シュミットはその話を聞いて感じ入りそんな人を客として助けたいと思ってコーヒーだけでなく洋梨のタルトも注文した。コーヒーだけでなくタルトも非常に美味かった。
シュミットは次の年も旅行に出た、今度はイタリアではなくトルコだったが。
ある墓の中にシェパードに似た犬がずっとある墓標の前にいた、そのことが気になって昼食を食べる為に入ったトルコ料理店でふとあの犬は何だろうと呟くと。
店のおかみ、長い黒髪と黒い目ですらりとした彫のある顔立ちの彼女が言ってきた。
「お墓の犬ですが」
「ええ、あの子は」
イタリア語よりもたどたどしいトルコ語で応えた。
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