死に目に会うこと
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第二章
「それで働かざるを得なくてな」
「それで、ですか」
「自分の父親の葬式にも出なかったってな」
「奥さんにですね」
「愛想を尽かされてな」
「離婚ですか」
「しかも会社で自分の奥さんの葬式にも出ない様な奴だってな」
その様にというのだ。
「悪評が立ってな」
「それで、ですか」
「いられなくなってだ」
「辞めたんですか」
「そんな話を見たんだ、だからな」
「課長はですか」
「絶対にそんなことはしない、それに大事な人を看取ることもだ」
このこともというのだ。
「その人も喜んでくれるし人のやるべきことだ」
「だからですね」
「一週間有給を取れ」
課長は徳永に告げた。
「今からな」
「わかりました」
「見送って来い」
この言葉は微笑んで出した、そうしてだった。
徳永を送り出した、彼はまさに即座にだった。
大阪から愛知に向かった、新幹線に乗るとまさに風に乗った様であり。
すぐに名古屋に着きそこから実家に帰った、そうして病院にいる曾祖母と会った。彼女は彼の顔を見てだった。
微笑んで息を引き取った、そしてお通夜と葬式も終わってだった。
「そうか、会えたか」
「うん」
徳永は大阪に帰ってから北川に答えた。
「よかったよ」
「それは何よりだったな」
「本当にね。やっぱり大事な人の死に目にはね」
「会いたいしな」
「合わないと駄目だね、しかし三日どころか」
徳永はさらに話した。
「一週間なんてね」
「課長が有給取ってくれたことか」
「まさかだったよ」
「俺にも言ったよ、課長がこの会社に入った時のな」
「酷い上司の人だね」
「そうした人間もいるんだな」
「最低の人間だね」
徳永は顔を曇らせて述べた。
「本当に」
「そんな人はな」
「全くだよ、けれどね」
「そうした人は自業自得の結末を迎えるな」
「そうだね、けれど僕達はね」
「そんな風にはしないでおこうな」
「絶対にね、さもないと同じことになるよ」
徳永は真顔で話した。
「自分がね」
「ああ、大事な人の死に目には会う」
「そして会わせる様にする」
「そうなる様にして」
「していこうな」
「僕達もね」
徳永は北側に話した。そして課長に礼を言ったが彼は当然のことだと笑って返した。そして自分も部下にはそうしろと言い徳永は確かな顔で頷いた。
死に目に会うこと 完
2021・12・25
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