Fate/WizarDragonknight
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物は試し
「それで、場所はここ?」
響の案内でハルトがやってきたのは、見滝原の外れにある高架下。
車が行き交うその場所は、普通に生活していればまず訪れることはない場所だった。
頷いた響。彼女の言う通り、高架下のあちこちには斬撃や抉れた後が残っている。それほど大きくないのは、お互いが激突したからか、手加減があったからかは分からないが、衝撃が走るたびに心配になってくる。
「流石にいないよね……」
「まあ、もう何時間も経ってるし……」
響の言葉に、ハルトは頷く。
彼女の話によれば、響が美炎とともにここでブライと交戦したのは正午ごろ。そこへ、清香が搬送された報せを聞きつけ、今ハルトのマシンウィンガーに乗ってこの場所に戻ってきていた。すでに日も沈みかけているのも当然だろう。
「手がかりとか……アイツが、そういう情報を置いていくようにも見えないしなあ」
ハルトは、ムー文明最後の生き残りの姿を思い浮かべながら呟いた。
「ハルトさん、ソロとどれくらい戦ったんだっけ?」
「そんなにないよ。言っても、見滝原遺跡での一回だけ」
「そっか。じゃあ、わたしと同じか……」
響は天を仰ぐ。
「あの人とも、分かり合えればいいんだけどな……」
「……」
その言葉に、ハルトは目を細める。
少し息を吐き、ハルトは高速道路の裏側を見上げた。
「ソロ……ムー文明の人……だとすれば、やっぱりムーの力があれば、反応するよね」
「だと思うけど」
「仮にムーの力を用意できたとしても、今は大急ぎで情報が欲しいから……そんな、どこに転がってるか分からないムーの気配なんて……」
___我流・超雷電大剣ッ!___
「……」
「ん? な、何?」
ハルトは、じっと響を睨んだ。
「? ハルトさん?」
「ねえ。ちょっと、ベルセルクに変身してみてよ」
「いきなりの爆弾発言!?」
ハルトの発言に、響は驚く。
「ベルセルクって、サンダーベルセルクだよね? わたし、ラ・ムーとの戦いの後からもう変身出来なくなっちゃってるんですけどッ!」
「いや、そこを何とか……ほら、変身してみてよ」
「軽いッ! 軽さが爆発しすぎた言い方ッ!」
響のツッコミをスルーして、ハルトは「まあまあ」と急かした。
「物は試しだよ。ほら、変身変身」
「その言い方……まあ、いいけど」
響は肩を落とし、詠唱を開始した。
『Balwisyall nescell gungnir tron』
黄色の歌声。
それは、響の体を包み、丸い光を帯びていく。
彼女の体を譜面が包み、その中で演舞を行う。やがて、拳や蹴りに合わせて、彼女の四肢に武装が追加されていく。そして。
「はい、変身しましたッ!」
ガングニールの姿で、響は敬礼した。
「いや、いつもの装備じゃなくて、ベルセルクに」
「だから、変身出来ないんですってばッ!」
響はそう言って、両腕を組む。
「前はこうやって、うおおおおおおッって気合でサンダーベルセルクに変身出来たんですけど」
「今は?」
「今は……はあッ!」
響は両腕を組んで、気合を入れる。だが、何も起こらない。
「……」
「いや、そんな顔しないで! まだまだッ! うおおおおおおおッ!」
変化なし。
「チェストオオオオオオッ!」
変化なし。
「抜剣ッ!」
黒いイグナイトになった。
「変わりましたッ!」
「いや、その姿じゃないでしょ!」
「だって、変身できないんですもんッ!」
黒いガングニールで駄々をこねられると、ハルトも少し反応に困る。
白のガングニールに戻り、天を仰ぐ。
「うーん、何か掛け声で変身できないものかな?」
「そうだね……例えば、凄い変身だから、超変身とか?」
「おお、よさそうッ! それでは早速ッ! 超変身!」
響は拳法のように、右腕を回す。
だが。
「……ダメみたいだね」
「なんて生き恥ッ!」
「こうしてみると……」
ハルトは、顎をしゃくる。
「アイテム一つで変身できるウィザードってもしかしてかなり便利な方?」
「そうだと思います。そういえば、ハルトさんの変身って、コウスケさんのと同じでしたっけ?」
「そうだね。こうやって」
『ドライバーオン プリーズ』
ハルトは見本とばかりに、右手の指輪をバックルに当てた。
出現した銀のベルトを操作し、メロディーが流れだす。
『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』
「で、こうやって変身用の指輪を使えばオッケー」
『ハリケーン プリーズ フーフー フーフー』
ハルトは、適当に手に入って来たエメラルドの指輪を使う。
風の魔法陣が頭上より足元へ通過し、ウィザード、ハリケーンスタイルの姿となる。
「何て便利!」
「まあ、誰にでも使えるものでもないけど」
ふと、ハルトは、コウスケはどうやって魔法の指輪を手に入れたんだろうと思った。
「あれ、もしわたしだったら、サンダーベルセルクの指輪とかになって便利に変身できたんだろうなあ……」
「時々落としたりして大変だけどね。もうちょっと頑張ってみてよ」
「やりましたよッ!?」
「そこを何とか」
「これ以上は無茶ぶりッ!」
「まあ、そうだよね……」
他に手はないか。ウィザードは少し考え。
「それじゃあ……折角ハリケーンに変身してるし、これやってみる?」
ホルスターから指輪を取り出した。
それを見て、響は顔を引きつらせる。
「ま、待って! 何それ!? その指輪、何をするやつなの!?」
「サンダー」
簡潔に答えたウィザード。
「もう名前からして物騒な名前ッ!」
「大丈夫大丈夫。手加減するから。ほら、こういう失った力って、同系統のものを浴びると治るとか言うじゃない?」
「言わないよッ!」
だが、ウィザードは響の腕を掴み、その腕にサンダーのウィザードリングを嵌めた。
「まあ、これも物は試しだ。やってみよう。手加減するから」
「いやだから……」
『チョーイイネ サンダー サイコー』
「わ、わたしの腕があああああああッ!」
響に付けた指輪より現れた、雷の術式が印された魔法陣。
最初は風のウィザードの色である緑だったが、すぐさま黄色に変わっていく。
「うおおおおおおッ! 出てる出てる! 雷出てるッ! わたしの内側から何だかビリビリと雷出てるよッ!」
「っ!」
ウィザードはすぐさま足元に風を発生させ、響の頭上へ跳び上がる。
同時に、響の手元の魔法陣より、黄色の雷が発生した。天高く飛び上がり、高速道路を破壊しようとするそれ。
ウィザードは身を挺し、雷をその身に浴びた。自らの魔法陣を書き換えられたそれは、もはや別人が放った雷と何ら変わりはない。
変身解除されながら、ハルトは響の前に転がった。
「ハルトさん!」
「だ、大丈夫……ちょっと体が痺れるけど……」
響に助け起こされるハルトは、その姿を見て唖然とした。
白でも黒でもない、新しいガングニールの色。白銀の鎧と、魔法陣があったところには刃が雷で構成された大剣が握られている。
「これ……響ちゃん!」
「ん? ……あっ!」
響は、そこでようやく自らの体を見下ろした。
「これ……なってる! わたし、サンダーベルセルクにッ!」
「おお!」
久方ぶりに見る、ムーに由来する種族、ベルセルクの力を受けた姿。
それに思わずハルトは手を叩いた。
「成功だね! あとは、これをソロが察してくれれば……」
「来てくれますかね……?」
「ここまでやったんだから、むしろ来ないと俺は怒る」
「じゃあ、ちょっと……あ、でももう少しエネルギーを出した方がいいかな? 攻撃、どこにやればいいんだろう?」
「取りあえず、じゃあ俺に」
ハルトはそう言って、少し響から離れる。手招きして、響に攻撃を促す。
「だ、大丈夫? これ、結構攻撃力高いよ?」
「大丈夫……いや、響ちゃんにはこう言った方がいいかな? へいき、へっちゃら」
ハルトは、トパーズの指輪を見せつける。
「変身」
『ランド プリーズ』
「続いてこれ」
『ディフェンド プリーズ』
土のウィザード、その最も得意とする魔法である防壁魔法。
その向こうで、ウィザードは「ほらほら」と手を叩いた。
「これを壊せるほどの出力なら、ソロだって勘付くんじゃないかな?」
「うーん……分かりました。それじゃあ、結構本気で行くから、気を付けてね」
「ああ。よし、来いっ!」
「行きますッ!」
どっしりと構えるウィザードに対し、響は雷の大剣を振り上げた。
そして。
「我流・超雷電大剣ッ!」
雷鳴が、誰も見ることのない高架下に響いた。
「……こんなもので……」
ウィザードが張った土壁。
その一欠片を、ソロは拾い上げた。
「わざわざベルセルクの力を用いてまで、オレを呼び出したかったのか」
「まあね」
ボロボロのハルトは、ソロへニヤリと笑んだ。
「久しぶり。ソロ……」
「キサマ……ウィザード……それにランサー」
欠片を放り捨てたソロは、ため息をついた。
「敵であるキサマらと、何を話そうというんだ」
「アンタに色々と聞きたいことがある」
「……」
ソロは口を閉ざす。
動かない彼にハルトは続けた。
「響ちゃんから、八岐大蛇の話を聞いた。以前、アンタが荒魂の女の子……コヒメちゃんを狙ったのも、それに関係するんだろ」
「……キサマには関係のない話だ」
ソロは鼻を鳴らしながら、その端末を取り出す。
以前ハルトが博物館でも同じものを見た、電子端末。
古代のスターキャリアーと呼ばれるもの。その液晶が輝き、その中より灰色の怪物が出現した。
「……!?」
以前彼と対峙した時にはなかった、灰色の生命体。
ソロの隣に並ぶ、刃の手を持つそれは、その虚ろな目をハルトへ向けていた。
「……っ!」
「それより、キサマとは……キサマとランサーとは、今ここで……」
その時。
ハルトのスマホが鳴り出す。
張り詰めた緊張を断ち切るその音に、ソロは一時的に戦意を喪失した。
「……フン」
ソロは、顎で出ろと示す。
ハルトはソロから目を離さずに、スマホの画面を確認する。
すると、その画面には、衛藤可奈美の名前が表示されていた。
「可奈美ちゃん?」
『ハルトさん!』
そこに出てきたのは、張り詰めた声色の可奈美。
『美炎ちゃんが……コヒメちゃんの場所が分かったって……!』
「美炎ちゃんが? どうしていきなり……? 落ち着いて!」
『とにかく、早く来て! 場所は……あ、待って美炎ちゃん!』
可奈美との通話は、そこで途切れた。
ハルトは通話終了画面を見下ろしながら、唇を噛む。
「可奈美ちゃん……? 何があった?」
「もういいか?」
ソロはその言葉と共に、右手を突き上げた。
すると、灰色の生命体は、体を捩じりながらその手に……
「っ!」
その時。
ソロの表情が陰る。
右手を下ろし、連動して灰色の生命体もその動きを止める。
「っ!」
「ソロ?」
「……要石っ…!」
それ以上の言葉を重ねるよりも早く、ソロはジャンプした。
人間離れした跳躍力で、一気に高速道路へ乗り込む。
「待て! ソロ!」
ハルトは呼びかけて、マシンウィンガーに飛び乗る。
「響ちゃん! 乗って!」
「いや、ハルトさんは先にソロを追いかけてッ!」
すでにガングニールを纏った響が、高架下から地上へ跳び上がる。
「わたしは、他の皆を呼んでくる!」
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