族のヘッドよりも
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第二章
「及びつかないぞ」
「そこまでの人ですか」
「一体どんな人なのか」
「穏やかそうに見えても」
「それでも」
「ああ、恐ろしい人だぞ」
梶谷はその老人を見て言った、老人はそれから時々店に来る様になったが若い男と一緒に来た時にだった。
二人で剣道の話をしてだ、若い男が老人に武専の話を聞きたいと言った。梶谷はその話を聞いて頷いた。
「武専か、道理でな」
「武専って何ですか?」
「はじめて聞く言葉ですけれど」
「何ですか?」
「ああ、戦前にあった学校だよ」
梶谷は店員達にその武専について話した。
「武道専門学校って言ってな、剣道と柔道、薙刀をそれぞれ専門的に学ぶ学校だったんだ」
「そんな学校あったんですね」
「戦前はそうだったんですね」
「そんな学校あったんですね」
「ああ、日本全国で強い人ばかり集めてな」
そうしてというのだ。
「定員は一学年二十人までだったんだ」
「全国で、ですか」
「二十人だけですか」
「それは凄いですね」
「東大入るよりも難しかったんだ」
それだけの難関だったというのだ。
「何しろ入学出来なかった人の為に国士館が出来たからな」
「あの大学それ出来たんですね」
「そうだったんですね」
「それは知りませんでした」
「ああ、そんな人だとな」
それこそというのだ。
「俺なんてな、とても相手にならない」
「柔道七段でもですね」
「元族のヘッドでもですね」
「敵わないんですね」
「しかもあの年代だと戦争にも行ってる」
本物の生き死にの場所にというのだ。
「なら尚更だ」
「敵わないんですね」
「あの人に」
「とても」
「ああ、剣道と柔道の違いはあってもな」
それでもというのだ。
「俺が例え銃持っていても勝てないな」
「ただのお年寄りと思ったら」
「実は違うんですね」
「とんでもなく強い人なんですね」
「そうだ、世の中そんな人もいるってことをあらためて知ったぜ」
梶谷はその老人を見ながら言った、見れば老人は若い男にその武専のことを話していた。穏やかでもの静かだがそれでもだった。
梶谷には見えていた、老人から発せられるオーラを。それは元族のヘッドで柔道七段の彼をして畏怖させるものであった。
後にわかったが老人は剣道九段でしかも古武術のある流派の免許皆伝であった。梶谷はそのことも聞いて余計に自分なぞでは及びもつかない相手であると彼を畏怖したのだった。
族のヘッドよりも 完
2021・12・21
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