下馬評を覆し
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第六章
「今日ベンチにマクガフはいないが」
「それじゃあ誰が投げるんだ」
「それが問題だぞ」
「石山か?」
「まさか高橋じゃないよな」
既に百二十球以上投げている彼はないと思う者が多かった。
「これまで抑えてくれてるが」
「流石に九回は無理だろ」
「投げないだろ」
こう思った、しかし。
高津はその高橋をマウンドに送った、多くの者が大丈夫かと思ったが。
オリックス自慢の吉田とやらそして杉本とやらを抑えてだった。
昨日マクガフに四球を投げさせ彼が崩れる要因を作ったジョーンズとやらが代打で来てもだった。
見事三振に打ち取った、これには誰もが驚いた。
「おい、ヤクルトが勝ったぞ」
「まさか勝つなんてな」
「高橋が完封か」
「まさかのまさかだな」
「何度も危ない場面があったけれど」
「五回まで毎回ヒット打たれていたが」
「高橋粘ったな」
「凄い頑張ったな」
多くの者が彼を讃えた、そして。
まさかの敗北を喫したオリックスナインは本拠地を後としたがこの際中嶋は予告先発を聞かれても負けたという理由で言わなかった。
「いつも言わないのか?」
「負けたら言わないのか?」
「そういうものか?」
「権藤さんや東尾さん負けても言ってたぞ」
九十八年のシリーズの話が出た、この時は横浜と西武の対決であったがそれぞれのチームの監督はピッチャー出身であり最後の最後までそれを続けたのだ。
「そういうことしないんだな」
「勝ったら言って負けたらしないっておかしくないか?」
「山本言う時は誇らしげだったのにな」
「負けたらそうなのか」
球場を去る中嶋を見て首を傾げさせた、そして高津はこの時もだった。
予告先発は言わなかった、そのうえで東京に戻った。
東京での試合は東京ドームであった、ヤクルトの本拠地である神宮球場が事情により使えずその為球界はおろか戦後日本を蝕む倫理の崩壊という極めて深刻な病理の元凶である巨人の本拠地であるこのチームの本拠地を使うことになった。
第二試合は高橋の完封によりセリーグチームのパリーグ本拠地球場での連敗記録を止めただけではなかった、高津は流れも見ていた。
「うちに傾いている、次の試合で勝つとだ」
「はい、流れがうちになりますね」
「うちにぐっと近付いてきますね」
「そうなりますね」
「そうなる、最後の最後まで油断しないでだ」
そうしてというのだ。
「戦っていくぞ」
「わかりました」
「東京ドームでは今年どうも相性が悪いですし」
「気をつけていきます」
ナイン達は高津に強い言葉で応えた、そうしてだった。
一日の移動日を挟んで第三試合を迎えた、ヤクルトは先発は小川泰弘を送った。オリックスは予告先発を放棄した中嶋は田嶋とやらだった。
この予告先発の放棄におかしな者を感じる者がいた。
「オリックスちょっとぶれてきたな」
「ぶれてきたって采配がか?」
「ああ、多分山本と宮城で二勝は間違いないって思っていたんだろう」
その者は知人に話した。
「それがだ」
「山本で勝てなくてか」
「二試合目はその宮城で負けただろ」
「だからか」
「最初の試合は勝てたけれどな」
それでもというのだ。
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