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歪んだ世界の中で

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第二十二話 吹雪でもその十

「実はね」
「それはどうしてですか?」
「千春ちゃんは確かにそこにいるよ」
 それはわかっているというのだ。
「けれどね。ずっと死にそうなままね」
「ベッドの中におられるのですね」
「やつれてるから」
 そのこともわかっていた。あの姫路城の日から。
「その顔を。千春ちゃんも見せたくないからね」
「だからですか」
「うん、僕はあえて行かないことにしているんだ」
「ではあの人が元気になられてから」
「その時に。千春ちゃんから僕の前に来てくれるだろうから」
 だからこそだというのだ。
「僕は今はね」
「あえてあの人のところに行かれずにですか」
「お薬をあげ続けるよ」
「それもまた心遣いですね」
 希望のその話を聞いてだ。真人はここでも笑顔になった。
「遠井君はやっぱり凄い人ですね」
「心遣いだから?これが」
「はい、そうです」
 それ故にだというのだ。
「凄いと思いますよ」
「だといいけれどね。とにかくね」
「はい、今はですね」
「千春ちゃんにお薬をあげ続けるよ」
 こう真人に述べる。
「このままね」
「そうですね。若しも僕が」
「友井君が?」
「女の人だったら遠井君を好きになっていましたね」
「ちょっと。それはね」
「駄目ですか」
「僕には千春ちゃんがいるし。それにね」
 そう言った真人にだ。希望は笑顔で話した。
「友井君が女の子だったらっていうのは」
「考えられないですか」
「うん、ちょっとね」
 そうだというのだ。
「そんなことを言ったら僕もだよ」
「遠井君もですか」
「僕が女の子だったら友井君を好きになっていたよ」
 異性としてだ。そうなっていたというのだ。
「けれど女の子の僕を。友井君は想像できるかな」
「ちょっとそれは」
「だよね。だからね」
「お互い僕達が女の子だということは」
「考えられないよ。友達同士だってことは考えられても」
 同姓の場合は考えられる。しかしだというのだ。
「女の子っていうのはね」
「そうなりますね。確かに」
「それじゃあね」
「はい、ですね」
「これからも友達としてね」
「宜しくお願いしますね」
 二人は友人同士、最も親しいそれの関係であった。それが彼等だった。
 希望はそこにも彼の名前を感じながら進んでいた。そのうえで千春に薬をあげた。この日もまた。 
 冬は終わろうとしてその端境期に入ろうとしていた。春は間近だった。


第二十二話   完


                       2012・6・17 
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