歪んだ世界の中で
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第二十二話 吹雪でもその五
「何があっても行くよ」
「僕も。おそらくは」
「おそらくは?」
「若しあの人のことを深く知らなかったら」
そうであったならだ。どうだったかというのだ。
「偏見を持っていたと思います」
「化け物だって思っていたんだね」
「はい、おそらくは」
こうだ。真人は希望に述べた。
「お心を見ていなければ」
「心だよね」
「人が何故人でいるのか」
「心が人だからだよね」
「そのことがわかりました」
千春を見て。そして千春の素性を知ってだというのだ。
「ようやくですが」
「僕もね。千春ちゃんの素性を知ったのはあの時だったけれど」
他ならぬ千春のやつれた顔での告白、その時にだった。
「けれどね」
「それでもですね」
「何も拒否することなく受け入れられたよ」
「その様ですね」
「千春ちゃんの心がわかっていたからね」
それ故にだとだ。希望は優しい笑顔で真人に話した。彼のその笑顔は彼だけではなかった。真人も同じ笑顔で彼の話を聞いていた。
「だからね」
「そうですね。僕もです」
「友井君もなんだ」
「僕も遠井君もずっと山をよく歩いてきましたね」
「そうだったね。子供の頃からね」
「そこで自然と親しんできました」
その時のことも思い出してだ。真人は述べていく。
同時に希望とのことも思い出していた。彼にとってはかけがえのない思い出だ。
その思い出に温かいものも見てだ。希望に言う。
「そこには草木があり虫や動物達もいて」
「そしてだよね」
「あの人もいたのですね」
「この世にいるのは人間だけじゃないからね」
「森羅万象ですね」
この言葉もだ。真人は話に出した。
「この世のありとあらゆるものに心があり」
「そしてその心が人と同じものであれば」
かつだ。人の姿になれるだけの霊力を備えればだというのだ。
「それで人になれるんだね」
「人間も。心を失えば」
人の心、それをだというのだ。
「それで人でなくなります」
「そうだね。そうした人間もいるよね」
「残念ですが」
ここでは曇った顔になり。真人は希望に答えた。
「そうした方も確かにおられますね」
「暴力団とかにね」
「います。暴力団員とは限りませんが」
しかしヤクザ者にそうした輩が多いのは事実だ。そうした世界だからだ。
「いますね。本当に」
「人かどうかは姿形とかじゃないんですね」
「そうですね。心ですね」
「だから千春ちゃんは人間なんだ」
希望は今確かに言えた。このことを。
「間違いなくね」
「そうですね。それでは」
「僕、絶対に毎日行って」
これからもだ。千春の下にそうしていってだというのだ。
「また千春ちゃんと一緒にいるようになるよ」
「そうして下さい。そしてやがては」
「やがてはって?」
「結婚されますよね」
真人は希望にあえてだった。この明るい話を言ってみせた。
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