歪んだ世界の中で
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第二十一話 与えられた試練その九
希望は思った。千春のことをだ。それで言うのだった。
「じゃあ明日は」
「学校行くことできへんかもな」
「電車も何もかも止まってまうかもせえへんで」
「いや、それでもね」
どうかとだ。希望は言った。
「明日学校が休校になっても行くから」
「学校にかいな」
「そうするんかいな」
「ちょっと。千春ちゃんのところに行って来るよ」
おばちゃんにもぽぽちゃんにも紹介している。だからだった。
希望は二人にこう言った。確かな声で。
「明日ね」
「そうするんか。けれどな」
「明日吹雪かもせえへんで」
おばちゃんとぽぽちゃんは希望の言葉を受けた。だがだった。
彼を心配してだ。こうも言ったのだった。
「それでも行くねんな」
「吹雪でも」
「うん、行くよ」
一日でも休んでは終わりだ。それならだった。
「絶対にね」
「ほな外出る時はあったかくしいや」
「コートもセーターも来てな」
そしてだというのだ。
「中にはカイロも入れてね」
「ちゃんとしていきや」
「あと手袋やマフラーもだよね」
二人の言葉を受けてだ。希望も言った。
「そうして温かくして」
「あの娘は大事やけどあんたが風邪ひいたらあかんで」
「自分の身体は大事にしいや」
二人が希望に向けたのは慈しみだった。まさに親が子供に向けるものだった。
「そやからな。絶対な」
「身体はあったかくして行くんやで」
「うん、わかったよ」
二人の言葉を受けてだ。希望はまた頷いた。
そしてそのうえでだ。二人にあらためてこう言った。
「明日はうんと温かくして行くから」
「カイロ幾つでも持って行くんやで」
「なんぼでも渡すさかいな」
「有り難う。じゃあ吹雪でも何でも」
そうしたことが起こってもだと言ってだった。
「行って来るからね」
希望はこの時も何があろうと外に行くつもりだった。千春の下に。全ては彼女を助ける為だった。例え吹雪でも何でもだ。彼を止めることはできなかった。
第二十一話 完
2012・6・11
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