歪んだ世界の中で
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二十一話 与えられた試練その三
そして御簾の向こうに座布団がありそこに顔は見えないが確かに人がいた。それは十二単、赤や桃、白の豪奢なそれを着ていた。
その顔の見えない十二単の女を見てだ。彼等は言うのだった。
「姫様がどうお考えなのか」
「どうされるか」
「それで全部決まるね」
「千春ちゃんのことはね」
「千春ちゃんのことがあの人によって」
希望は千春を抱き支えたままでだ。その人を見た。彼から見ても顔は見えない。
だがその身体から気を感じた。ただならぬものを。それを見てだった。
希望は千春にだ。こう尋ねたのだった。
「あの人だよね。御簾の向こうの」
「そうだよ。あの人だよ」
「あの人がお姫様なんだね」
「千春達のことを治めている人だよ」
まさにだ。その女がだというのだ。
「お姫様だよ」
「じゃあ今から」
「ああ、座って」
「座ってくれるかな」
妖怪や精霊達が左右から希望達に話す。
「今はちょっとね」
「そうしてくれるかな」
「あっ、お姫様の前だから」
それでだとだ。希望もわかった。それでだった。
彼は千春と共に座った。その場に。左右にいる妖怪や精霊達もそれに続く。
そうして控えるとだ。御簾が誰がやったともなくするすると上がる。そこからだった。
姫が顔を出してきた。それは黒く絹の様にさらりとして光沢のあるものだった。
その長い髪を持る白い顔の女だった。白い顔は穏やかな表情をしている眉は丸い.所謂公家眉だ。
目は切れ長で二重だ。睫毛が長い。そして鼻は高く見事な形をしている。唇は紅で小さい。顎は先がやや尖っていて流麗な形をしている。
その美女がだ。こう千春に言ってきたのだった。
「お話は聞きました」
「そう、ですか」
「はい。このままでは貴女は」
「消えますよね」
「そうなります」
この現実をだ。姫は千春に告げた。
「もう暫くすると」
「あの」
姫が千春に告げた言葉を聞いてだった。
その姫に対してだ。こう言った。
「いいですか?」
「千春さんの恋人の方ですね」
「はい、そうです」
その通りだとだ。希望は姫にも答えた。
「僕は千春ちゃんを助けたいですけれど」
「そうされたいというのですね」
「はい、それはできますか?」
「できることはできます」
はっきりとだ。姫は希望を見て答えた。
「可能です」
「そうですか。じゃあ」
「ですが」
しかしだとだ。姫は明るくなりかけた希望にすぐにこうも告げた。
「それは非常に難しいです」
「といいますと」
「貴方の心を見させてもらいます」
「僕のですか」
「千春さんを助けたいですね」
「絶対に」
強い声でだ。希望は顔をあげたまま姫の問いに答えた。
「そうしたいです」
「そうですか。二言はありませんね」
「千春ちゃんは僕にとってかけがえのない人です」
だからだというのだ。
「ですから。何があっても」
「わかりました」
姫は希望のその言葉を聞いて頷いた。
「それではです」
「じゃあ助ける方法は」
「暫くの間。とはいっても幾らかかるかわかりませんが」
こう前置きしてだ。姫は希望に話した。
ページ上へ戻る