歪んだ世界の中で
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第二十話 災いの雷その四
「そうしてきたんだよ」
「そうだったんだ。カブトガニも」
「海に行った時に観てたんだよ」
「僕と会う前に?」
「そうだよ。千春が一人だった時に」
遠い目になっていた。何百年もの時を見ている様な目だった。千春は今はその目になってそのうえで希望に対して語ったのである。
「観てきたんだ」
「そんなこともあったんだ」
「そうだよ。一人で観てもね」
カブトガニに限らずだ。その他の生き物や物事もだというのだった。
「面白くないよね」
「二人で観るのとは違って」
「うん。二人だと面白いからね」
「じゃあ観に行く?カブトガニとかも」
「そうしよう。それでカブトガニの他にもね」
「ラッコに海亀にスナメリにね」
どれもこの水族館の人気の動物達だ。
「バイカルアザラシとかもいるから。イルカも」
「多いのね、ここにいる生き物って」
「そうなんだ。日本どころか世界屈指の水族館でね」
とにかく充実しているのだった。何もかもがだ。
「凄いよ。とにかく観て行けるだけ観ていよう」
「うん、そうしよう」
こう話してだ。そのうえでだった。
二人で水族館の中を巡っていく。当然カブトガニも観た。
そしてアマゾンのコーナーにも来た。そこにいる巨大な水槽の中の巨大な魚達を観てだ。
アマゾンを模した密林の木々が後ろに多くある水槽の中のピラルク、その悠然と泳ぐその魚を観ながらだ。希望は隣にいる千春に言ったのだった。
「この魚ってね」
「ピラルクだよね」
「日本にいないけれどこうして観てみるとね」
「物凄く大きくてね」
「一緒に川の中にいたら食べられそうだよ」
「あそこの鯰もだよね」
三メートルはある巨大な鯰もいた。ビワコオオナマズどころではない。
「千春なんか食べられそうだよね」
「実際にあの鯰だとね」
「食べられるの?」
「うん、人間の子供が食べられることもあるそうだよ」
見れば巨大な口だ。本当に人間の子供も丸呑みにできそうだ。
その口も観てだ。希望は言うのだった。
「だから凄く怖いらしいんだ」
「そんな鯰がいるなんて」
「アマゾンって凄いよね」
「日本とは全然違うよね」
「本当にね。アマゾンってこうした物凄く大きなお魚の他にもね」
横の、壁のところにある水槽はピラニアの水槽だった。
その水槽を観てだ。希望は言った。
「あのピラニアもいるし」
「知ってるよ。物凄く凶暴なお魚だよね」
「小さいけれど鮫よりも怖いから」
群がって食い千切ってくる。ピラニアの群れに襲われたならば大きな牛も五分で骨だけになってしまう。アマゾンでは川に落ちただけでも命に関わる場合がある。
「ああいうのもいるし。他にも」
デンキウナギの水槽もある。そこもだった。
「あとは生き物だってね」
「怖い動物が一杯いるのね」
「それがアマゾンなんだ」
「凄く危険な場所なの」
「緑の地獄って言うらしいよ」
この言葉も出した。
「友井君が言ってたけれど」
「緑の地獄なの」
「そうらしいよ。危険な動物が一杯いるからね」
「けれど」
だが、だった。ここでだ。
千春は水槽の中に、自ら出ているアマゾンの木達を観てだ。こう希望に言うのだった。
「あの子達は幸せみたいよ」
「えっ、あの子達って?」
「うん。あそこにいる木達はね」
その木を観ながらだ。希望に言うのだった。
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