僕は 彼女の彼氏だったはずなんだ 完結
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第十二章
12-⑴
私達3人は、電車で敦賀に向かっていた。京都駅まで出て、快速に乗って敦賀を目指していた。清音は、ピチっとした短パンに薄いパーカー、編み上げのサンダルという恰好でやってきていた。私も、短めのキュロットだったんだけど、あの子の方が脚が長くてスタイルが良かったんだ。
「お姉ちゃん 琵琶湖だよ ずーと見渡せるんだね 私、バイクで走ったことはあるんだけど、電車だとこんなに見えるって知らなかった ポコンとした山もあるんだぁー」
「私は、あの時、蒼と そー言えば 重い気持ちで 乗っていたんだ」と、思い出していた。
敦賀の駅で、少し、乗り換えの時間が有って、駅前で鯖寿司と穴子の寿司を買いに行った。清音が海岸で食べようよと言って居たからだ。あの子には、あの海岸に行く理由を前もって説明していたのだ。目的の駅に降りたが、前と風景は変わっていない、むしろ、前より、閑散としたように思えた。海岸に向かう途中、コンビニがあったので、飲み物を買ったのだが、お父さんは、お酒がいいと言って居たのだが、私はこの人、アル中気味なのかなと心配していた。清音にその話をしたら
「お姉ちゃん 男の人ってそんなもんだよ お父さん、普段、一生懸命働いているじゃぁ無い それに、お酒が楽しみだと思うから お休みの日ぐらい、いいんじゃぁない」
「そうかなぁー」
そして、海が見えてくると、清音は
「わぁー 海だ 私 海に来たなんて、覚えないんだよね 泳ぎに行くのも、いつも、プールだったから」と、言って、砂浜に向かって、走って行ってしまった。
波打ち際には、2組の家族連れが遊んでいるだけで、広々としていた。そうだ、あの時は、誰もいなくて、私、貝殻を拾ってたんだっけ・・。その砂浜に私は持ってきたバスタオルを敷いたんだけど、清音は自分のパーカーを脱いで敷いて座っていた。脱ぐと、ノースリーブのTシャツで、腕が日焼していて、半袖の跡がわかった。
「清音 陽焼けしているね」
「えへー 農作業でね でも、普段、半袖だから 境目がみっともないよね」
その後、買ってきたお寿司を食べていたんだけど、陽ざしが暑いので、近くの物置小屋の陰に移動した。
「お姉ちゃん 波のところいこう」と、清音が向かった。二人で、少し、遊んで、戻ってくると、お父さんが
「昔、よく、二人でここで遊んでいたよなぁー」と、ポツンと言った。
「お父さん それは・・」私 言いかけて、止めたのだ。
「清音 ちょっと あっちの方 見に行ってみよ」と、誘った。あの時の建物がどうなんか 見てみたかったのだが、なんか、魅かれていたのだ。あの高井さんの家がどうなっているのか・・。
清音も付いて来て、比較的大きな屋根の家に向かった。庭先に着くと、小さな女の子が軒先で何かをしていた。イカとか小さな魚の開いたものを何かしていた。誰も、住んで居なかったはずなのに・・。
「こんにちわ お嬢ちゃん この家の人?」と、声を掛けたら
「あっ そうだよ みれい って言うの」と、元気よく返ってきた。
「そう お家の人は?」
「うん お母さんとふたりだけなんだけどね 今 お仕事 もうすぐお昼ごはんで帰って来る 私ね今、この干物 反対向けていたんだ 片側だけ陽が当たると、ふっくらしないんだって だから、お手伝いしてるんだよ えらいでしょ」と、言っている顔は、高井さんの面影にそっくりだった。
「そうなの えらいわね」と、話していたら、後ろから声がした。
「どちら様ですか・・・」
私達がその方を振り返ったら、声が詰まってしまったようだった。高井さんだ。
「お久しぶりです」とお辞儀をしたら
「もしかして 美鈴ちゃんと清音ちゃん?」と、聞き返してきたのだ。
「そうです 覚えていてくださいました?」
「ええ もちろんよ あの時も、可愛かったけど、お二人共 きれいになって・・ わざわざ、尋ねてきてくださったのー?」
「ええ まぁ お父さんとここの海岸を見に来たんです お父さん、砂浜に居ますから、会ってください」と、強引に連れて行った。
海岸まで行くと、お父さんは波打ち際で砂をいじっていた。高井さんは、思わず
「社長さん お元気そうで・・私 小さい頃、よく、あそこで遊んでもらった」と言った切り、立ち止まって、足をとめていた。
「美鈴ちやん ごめん 私 やっぱり 社長には、顔を合わせられない」と、涙を浮かべていたのだ。
「どうして? お父さんも、きっと喜ぶよー」
「私ね 社長さんには、不義理してしまって・・私はね 社長さんが倒れた時、私のお母さんも状態も良く無くてね 入院して手術受けるにも、お金無かったの 社長さんにも相談出来なくて・・ そんな時にね、上野に声を掛けられたの 言うことをきけば、お金の面倒をみてやるって それで、私 あいつに身を任せたの それで、しばらくしたら、会社も辞めろって言われて 上野が会社のこと自由にしたかったんだと思う でも、もてあそばれたのね 妊娠がわかった時も、知らんぷりされて・・ そのうち、ナカミチがつぶれたって聞いて・・ でも、私は、産んだわ あの子 独りで育ててきたけど、結局、母も亡くなって、ここに、3年前に帰ってきたの そんなだから、社長さんに合わせる顔ないのよ あんなに、お世話になったのに・・」
「ごめんなさい 私 なんも、知らなくて・・ あいつ、お母さんと・・ お父さんを裏切って」と、それまで、黙って聞いていた清音が謝っていた。
「清音ちゃんが、謝ることじゃぁないのよ 私が、しっかりしてなかつたから」
「だけど 高井さん お父さんは、倒れる前の記憶は無くしているのよ だけど、高井さんの顔を見ると、少しでも思いだすかも・・」
「そうなの そんな状態なんだ でも、本当に、ごめんなさい 私 辛くて・・ 今ね、私、近くの旅館で手伝いとかして、漁師さんからお預かりして内職みたいなこともやっているし、みれいと一緒に、なんとか平穏に過ごしているの だから・・」
「うん わかった でも、高井さん 心配しないで、今は、ナカミチ復活して順調にいっているの そして、もうすぐ、お店を大きくした建物が完成するのよ だから、高井さんが責任感じていること、もう、必要ないのよ あの子、元気に育ててね 良い子よね みれいちゃん」
「ありがとう あの子 美しいと鈴 って漢字書くの ごめんなさい 名前 勝手に使わせてもらつて 美鈴ちゃんみたいに やさしい娘に育って欲しくて・・」
「えー そうなんだ じゃぁ 妹みたいなもんだね 明るくて良い子 幸せにね 私も、末に結婚するの」
「そうなのー おめでとう 中学生だったのにね 早いわー 私も、それだけ歳とったのよね」
「そんなこと ないですよ まだまだお綺麗です それから、もし、何か困ったことあったら、連絡ください」と、私は、お店の名刺を渡したら
「まぁ 美鈴ちやんが ナカミチの店長さん 苦労したのね どうぞ、社長さんのこと よろしくお願いします」と、最後に言われて、高井さんと別れたのだ。
砂浜を走ってお父さんのもとに駆け寄ると
「おぉー どこまで、散歩行っていたんだ さっき 話していたの この辺の人か?」
「うん ここの人 素敵な人だったよ」
「そうか この辺の人はみんな良い人ばっかりみたいだからな やっぱり ここの海は懐かしい感じがするよ さぁ 行こうか 宿に」
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