月よ永遠に
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第二章
「こころの先生は一緒になるまでで」
「そこまで考えていてね」
「そこから先は考えていませんでしたね」
「そうね」
「Kのことも他のことも」
「幸せを紡いでいくともね」
その想い人とだ。
「全くね」
「だから取り返しのつかないことをしてしまって」
「深く傷付いてね」
自分自身がそうなってというのだ。
「幸せを紡ぐどころか」
「抜け殻になってでしたね」
「一生を過ごしたのよ」
想い人と結ばれてからというのだ。
「折角幸せを掴んだと思ったら」
「幸せになれなかったんですね」
「そうよ、だからね」
「あの先生みたいな奪うことはですね」
「したらね」
それこそというのだ。
「後悔するわ、そして後悔しない様なね」
「そうした酷い人もいますね」
「因果応報よ」
伊東は今度はこの言葉を出した。
「自分もよ」
「同じ目に遭いますか」
「それとはまた違う報いを受けることもあるわ」
「どちらにしろいい結末はないですか」
「ええ、悪いことをしたら返って来るから」
自分自身にというのだ。
「だからよ」
「どのみち先生みたいになりますか」
「だからしないことよ、それで貴女の話に戻るけれど」
伊東は池端にあらためて言った。
「八条君が好きなのね」
「素敵な人ですよね」
池端は顔を綻ばせて応えた、褐色の肌だが赤らんでいることもわかった。そこに彼女の感情が出ていた。
「あの外見で教養があって理知的で紳士で」
「しかも能力も高くてね」
「穏やかで真面目で」
「だから源氏の君とさえ呼ばれているのよ」
今度は紫式部であった。
「そうね」
「美形で能力も高くて優雅で」
「人格者だからね」
「それで、ですね」
「ただ源氏の君と違って」
その例えらえる彼と、というのだ。
「女性にはよ」
「縁がない人ですね」
「自分から言い寄ることは絶対にないわ」
「そこは本当に源氏の君と違いますね」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「自分はもてないと思い込んでいるから」
「だからですか」
「難しいわよ、私は応援は出来るけれど」
伊東は精進料理の中の豆腐を食べつつ述べた。
「彼はそうそうはね」
「交際まで辿り着けませんか」
「幾らプレゼントを貰っても付け届けにしか思わないのよ」
連合全体で礼儀とされていることだ、賄賂ではないが賄賂との境界が曖昧であることは否定出来ない。
「バレンタインのチョコレートもね」
「義理ですね」
「そうとしか思わない位よ」
「ご自身がもてないと思い込んでおられて」
「そうそう告白しても」
それでもというのだ。
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