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蛙岩

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第二章

「決してな」
「はい、蛙にとっては餌です」
「だからそなたを人の倍以上の大きさの蛙に変えてな」
 そうしてというのだ。
「蜘蛛を一呑みに出来る様にしてやる」
「そうすればですか」
「あの大蜘蛛を退治出来る」
 確実にというのだ。
「そうなる」
「それではすぐに」
「しかしこうすればそなたは死ぬ」
 蛙に姿を変えればとだ、氏神は弥六に忠告する様に述べた。
「そうなってしまう、この力は特別であるが故に」
「それで、ですか」
「左様、姿が変わり」
 そうしてというのだ。
「そのうえでな」
「蜘蛛を退治すれば」
「石になって死んでしまう」
 そうなってしまうというのだ。
「そうなってしまうがいいか」
「構いませぬ」 
 弥六は氏神に戸惑うことなく答えた。
「そうなりましても」
「よいか」
「はい」
 毅然とした声で答えた。
「わしがどうなろうとも」
「よいのだな」
「村と村人が救われるなら」
 それならというのだ。
「わしの命なぞ」
「そうか、その言葉偽りはないな」
「全く」
「わかった、ではな」
 氏神は弥六の言葉を受け入れた、そしてだった。
 弥六を人の倍以上の大きさの蛙に変えた、弥六はその姿になるとだった。
 すぐに蜘蛛が棲んでいる淵に向かった、そうして。
 蜘蛛が出て来るとだった、すぐに舌を伸ばし。
 蜘蛛を捕らえ一呑みにしてしまった、これにはだった。
「まさかな」
「ああ、蛙に姿を変えてまで」
「それで蜘蛛を退治しようとしてな」
「一呑みで終わらせるなんてな」
「弥六は凄いな」
「立派だな」
「よくやってくれた」
 誰もが弥六を讃えた、だが。
 弥六は彼等にこう言った。
「これでもういい」
「いい?」
「いいとは何だ」
「どうしたんだ」
「蜘蛛は食っただろ」
「もういいだろ」
「早く人の姿に戻れ」
 村人達はその弥六に言った。
「氏神様にお願いしてな」
「早くそうしろ」
「やるべきことはやっただろ」
「それじゃあな」
「戻してもらえ」
「そうしてもらえ」
「それは出来ないそうだ」
 蛙の姿の弥六は村人達に話した。
「この姿になって蜘蛛を退治したら死ぬそうだ」
「何っ、蜘蛛はもう死んだぞ」
「じゃあもうすぐじゃないか」
「お前も死ぬぞ」
「それでいい、わしは蜘蛛を退治出来た」 
 村と村人達を困らせているそれをというのだ。
「満足だ、じゃあな」
「死ぬか、今から」
「じゃあ看取ってやる」
「最期はな」
「そうしてくれると嬉しい」
 こう応えてだった。
 弥六は石になった、その石はまさに大きな蛙だった。村人達はその石を見て口々に涙を流して言った。
「わし等の為に戦ってくれた」
「大蜘蛛を退治してくれた」
「そのうえで死んだ」
「本当に立派な奴だった」
「弥六のことは忘れないぞ」
「何があってもな」
 こう言ってだった。
 以後この淵は弥六淵と名付けられた、そして。
 多くの者がその石を見て言った。
「これが弥六だな」
「蜘蛛を退治しや人だな」
「死んで石になって」
「今はこうしているんだな」
 その岩を見てこの話を知っている者達は口々に言った、一見すると只の蛙そっくりの岩だが実は命を捨ててまでして村と村人達を救った者であると。そしてその岩に深い敬意を表すのだった。


蛙岩   完


                 2021・6・11 
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