イベリス
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第二十九話 報いを受けた人その十五
「過去の自分をいつも思い出して」
「辛いでしょうね」
「罪の意識って辛いでしょ」
「ええ、悪いことをしたって思うと」
「良心がない人もいるけれどね」
所謂サイコパスである、こうした輩も存在するのだ。
「殆どの人は良心があるわ」
「ない人の方が少ないわよね」
「そんな人はごく稀よ」
「やっぱり殆どの人が良心があるわね」
「ええ、けれどね」
それでもというのだ。
「そうした人もいるの、けれどそうした人でもないと」
「良心があって」
「それでね」
「悪いことをしたら苦しむのね」
「そう、だから」
それでというのだ。
「咲ちゃんも苦しんで」
「先生もなのね」
「実際苦しんでいたでしょ」
「ええ、ずっと後悔しているみたいだったわ」
「そうでしょ、だからね」
それでというのだ。
「その先生もいい人になったけれど」
「苦しんでいるのね」
「多分一生ね」
「一生なの」
「それだけ罪の意識ってのは厄介なのよ」
「その人にとって」
「悪いことをしたことない人なんていなくて」
人間は不完全故にというのだ、善にもなれば悪にもなる。そしてよかれと思ってしたことが悪事になり悪意を以て行ったことが多くの人を助けることもあるのだ。
だからだとだ、愛も言うのだ。
「そして良心があるから」
「悪いことをしたら」
「罪の意識を持って」
そうしてというのだ。
「それでね」
「いい人になるけれど」
「けれどね」
「罪の意識にはなのね」
「苦しむのよ、本人は苦しいでしょうね」
「いい人になっても」
「それで幸せになって多くの人が助かっても」
それでもというのだ。
「先生ご自身はね」
「辛くて苦しいのね」
「そうなのね」
「そう、だからね」
それでというのだ。
「愛ちゃんいいもの見たわね、そして咲ちゃんもね」
「悪いことをして」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「苦しみも持つでしょうね、私だって」
「お姉ちゃんもなの」
「許されないことをして」
「後で気付いて反省して」
「そこから行いをあらためるけれど」
それでもというのだ。
「反省はね」
「それはなのね」
「して」
「苦しむのね」
「苦しまない人もそうはいないわよ」
「自分の過去に」
「そうよ、だから私もで」
咲に話した。
「咲ちゃんもね」
「苦しむのね」
「そうなるわ、けれど自分が反省して苦しんでも」
心の中でそうなってもというのだ。
「それで周りの人に優しく出来て周りの人が幸せになって」
「そして自分も助かるのね」
「それも世の中ってことね」
「そうなのね」
「そう、だからね」
電話の向こうの咲を見つつ話した、見えていないが今の愛には彼女の表情もよくわかっていた。それで言うのだ。
「そのこともね」
「意識して」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「ことを進めていってね」
「そうするわね」
こう言ってそうしてだった。
咲は愛との電話をここでお互いに別れの挨拶をして終えてだった。
歯を磨いて入浴してだった。
そうして勉強をしてから寝た、寝るその時もあの女性のことを思いだし心に刻みながら眠りに入った。
第二十九話 完
2021・9・1
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