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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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提督のBlackOps遍
  戦闘~救出班の場合~

 
前書き
※注意※
今回の話には話の都合上、汚い表現が含まれます。食事中・食後の閲覧はお薦めしません。 

 
「んじゃ、行動開始だ」

 提督の号令で、僕と夕立は乗ってきた船を離れる。僕達2人の任務はこの鎮守府の提督を発見・救出する事。提督と赤城さん達が派手に暴れて、そっちに敵を惹き付けてくれている間にコッソリと侵入して探し出す。

「夕立、大丈夫かい?」

 夕立は鋭い目付きのまま、無言でコクリと頷く。あまり良くない傾向だ。普段は五月蝿い位によく喋る夕立が黙り込んでいる時は、相当頭に来てる時なんだ。こういう時は大概、暴走しちゃったりやり過ぎたりする。ボクが様子を見て、ブレーキ役にならなくちゃ。そんな事を考えながら壁沿いに進んでいると、遠くの方から爆発音がする。それに立て続けに発砲音。そこに混じって艦娘の砲撃音らしき音も聞こえてきた。

「派手にやってるみたいだね、提督は」

「陽動だから当たり前でしょ?」

 不機嫌そうにぼやく夕立。普段語尾に付いている『っぽい』っていう口癖も無い。……まぁアレは提督に可愛いって言われたから続けてるだけで、提督の前以外ではもう使わなくなっているんだけど。そんな事を考えながら壁に沿うように身体を進める。提督と青葉が視察と称して鎮守府内を歩き回って調査した結果、警備が異様に厳重な建屋があったらしい。

「ここかな?」

「多分ね」

 行き着いたのは、工廠の側にある倉庫。予備の艤装や資材、工具なんかを仕舞う関係上警備を置くのは自然だけれど、この厳重さは異常だ。

『入り口に2人、暗がりにも数人控えてるな……それに、サーチライトに赤外線センサーもありそうだ』

 確かに、ただの倉庫にこの警備は厳重過ぎる。問題はどうやって、この警備を破って中に侵入するかだけど……

「って、夕立!何する気なの!?」

 どうしようか悩んでいる間にズカズカと正面の出入り口に歩み寄っていく夕立。

「誰だ!止まっ……」

 瞬間、出入り口に立っていた2人の見張りに駆け寄って足払い。見事に掬われて転んだ娘(背格好から見て恐らく駆逐艦だ)の顔面を、夕立は躊躇無く踏み抜いた。ぐちゃっ、という肉が潰れた音がして、2人はピクリとも動かなくなった。

「殺っちゃった?」

「死んでないよ、多分ね。でも鼻骨は粉々」

 そういう所、夕立は一切の手加減が無い。艦娘は人に比べて頑丈だから、って。

「うわぁ……御愁傷様」

「それより、早く入るよ」

「あ、待ってよ夕立ぃ」

 顔が潰れた見張りのポケットをまさぐり、そこからカードキーを抜き取る夕立。それを扉のロックに通すと、カチリと音がして扉が開いた。




 夕立はシンプルな物の考え方をする娘だ。『好きな物(者)はどんな事をしても手に入れる』というちょっと獣じみた考え方だけど。それでいくと提督は最優先で手に入れたい者のはずだけれど、夕立は金剛さんの事も好きだし、無理矢理提督を奪えない程度には力の差も理解してる。普段のアホの娘みたいな発言や行動は、提督にあざとくアピールする為の演技だったりするから、それなりに計算高いんだよね。そんな夕立にとって提督に敵対する相手なんて排除するべき存在だし、相手をする事すら面倒だと思っている節がある。

「ここの提督さんは何処かな?」

「簡単に見つかる様な場所には隠してないんじゃない?例えば……地下室とか?」

 夕立と会話を交わしながら、壁や床を調べる。隠されたスペースとかがあるなら、ノックをすれば反響音が違う。場所が判ればアプローチの仕方も何となくは解る。僕達の鎮守府も提督と妖精さん達の趣味で色んな仕掛けだらけのからくり屋敷みたいになってるからね。


「時雨。ここ、多分下に降りるハッチあるよ」

「どれどれ……うん、確かに怪しいね」


 他の床はくぐもった音がするのに、夕立が見つけた辺りはコンコンと響く音がする。これは空間がある可能性が高い音だ。

「どうやって開ける?」

「簡単、ぶち抜く」

 そう言って夕立はウェストポーチから粘土状の物を取り出して床に貼り付けた。夕立がリモコンのボタンを押すと、ボンッと小さな音がして床に穴が空いた。

「C4なんてよく持ってたね?」

「川内さんにね。何が起こるか解らないから色々持っておけって」

 川内さんは自分の教え子をどうする気なんだろう?特殊部隊でも作る気なのかな?まぁ、今回は助かったのは確かだけど。穴の空いた床からは地下へ降りる階段が伸びていて、下からはぼんやりとした灯りとすえた臭いが漂って来ている。

「……行こう」

「うん」

 意を決した僕達は、階段へと足を伸ばした。






「これは……」

「胸糞悪い」

 地下にあったのは予想通り、牢屋だった。打ちっぱなしのコンクリートに、鉄柵。ただそれだけの、ベッドやトイレすらない檻の様な牢屋の片隅に、『それ』は転がっていた。

 両腕は背中に回されて拘束され、足は膝を曲げた状態で腿と脛をロープで縛られている。肋が浮いている所から見て、餓死しない程度にしか食事も与えられていないみたいだ。当然、拘束された状態の上にトイレも無いのだから糞尿は垂れ流し。臭いの正体はこれだ。全身青アザだらけで、薄く斬られた様な傷もある。顔もボコボコに変形する程殴られていて、元の顔が判別出来ない程だ。幸い、肋が動くのを確認できたから、息はある。

「酷い」

「早く助けよう」

 そう言って夕立はC4を取り出したポーチからピッキングツールを取り出して、牢屋の鍵穴に突っ込んでカチャカチャやりだした。

「それも川内さん仕込み?」

「…………まぁね」

 本当に川内は教え子をどうする気なんだろう?特殊部隊っていうか、泥棒の訓練じゃないの?

 そんな事を考えていたら、カチリと音がして鍵が開く。扉を開けて中に入ると、一層臭気が強くなる。けどそんな事を気にしている場合じゃない。

「どっちが担ぐ?」

「僕が担ぐよ。夕立は露払いを」

「了解。さっさと戻ろ?」

「逃がす訳無いでしょ、バッカじゃないの?」

 僕達の会話に割り込む様に、馬鹿にしたような、苛立ちを隠さない声が響く。反射的に声のした方--階段の方を見るとそこには、小銃を構えた満潮が立っていた。




「アンタ達あれよね?ブルネイ第1から来たとかっていう監査の艦娘」

「そうだよ。それでこの鎮守府の提督がここに拘束されているらしいと---」

「はっ、笑わせないでくれる?」

 満潮はそう言って鼻で笑うと、その顔を嫌悪で歪めた。

「前線にも出ないで、鎮守府から指示を出すだけの臆病者が私達の司令官?そんな役目の奴
、こっちから棄ててやるわ!」

 満潮の態度は上官に向けるそれではなく、明らかな侮蔑と嫌悪、そして殺意に溢れていた。

「やれやれ、だね」

「馬鹿もここまで来ると憐れっぽい」

 だが、そんな態度の満潮を見て、溜め息を吐く夕立と時雨。夕立など、苛立ちのせいで消えていた「ぽい」という口癖が呆れたせいで戻ってきていた。

「何よ!?馬鹿にしてんじゃ--」

 満潮の言葉はそこで途切れた。夕立が鳩尾に膝を叩き込んだせいで息が詰まったのだ。

「馬鹿と会話するのは労力の無駄っぽい。そもそも、馬鹿を馬鹿にするほど暇じゃないし」

「そうだね。『提督』と『艦長』の違いも解らない様な奴に、気遣いは無用だ」

 そう言って時雨は衰弱した提督を担ぎ、出口を目指す。

「さてと。帰り道も護衛は宜しくね、夕立」

「任せて。全員ボコる」

「…………程々にね」

 そもそも隠密行動なんだから、見つからない様に動かないと、というツッコミは喉まで出かけたが飲み込んだ時雨であった。


 
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