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イベリス

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第二十九話 報いを受けた人その十二

「なかったわ」
「じゃあお姉ちゃんにとっても」
「今そのお話聞けてね」
 それでとだ、愛も答えた。
「これは凄いお話聞けて」
「よかったって思ってるのね」
「そう思ってるわ」
「そうなのね」
「いや、このお話はね」
 愛はあらためて言った。
「こんなことはね」
「滅多にないっていうのね」
「ええ、流石にね」
「そうね、言われてみるとね」
「そうでしょ」
「ええ、あの先生に本当に怖かったの」
 実際にとだ、咲は愛に話した。
「学校で一番ね」
「怖かったのね」
「鬼みたいに怖くて」
 それでというのだ。
「通称鬼婆」
「そのままね」
「そう言われてたのよ、福島から来たともね」
「ああ、福島ね」
 そう言われると、とだ。愛も頷いた。電話の向こう側でそうしていることが咲にもわかった。
「安達ケ原ね」
「福島にあるのよね」
「そうよ、安達ケ原はね」
 愛もそうだと答えた。
「福島県にあるのよ」
「そうだったわね、私行ったことないけれど」
「そこにいたっていうのよ」
「実際のお話?」
「そこまではわからないけれど」
 それでもとだ、愛は咲に話した。
「実際に使ったいたお鍋とか包丁とか残ってるわよ」
「そうなの」
「棲んでいたっていう場所もね」
「残ってるの」
「洞窟みたいな場所にね」
「お家じゃないの」
「そうだったわ、それでね」
 愛はさらに話した。
「そこで人を襲ってね」
「食べていたのね」
「包丁で切ってお鍋で煮てね」
「物語じゃそうだけれど」
「本当にいたの?」
「和歌でも詠われてたわよ」
 愛は今度はこう話した。
「当時ね」
「そうなの?」
「ええ、安達ケ原にいるのは本当かって」
「そんな和歌もあったの」
「当時噂になっていたみたいよ」
「そうだったの」
「ええ、ただその先生そこまで怖かったのね」
 愛は咲にこのことをあらためて確認した。
「そうだったのね」
「学校一怖い人で有名だったのよ」
「その人が怪我をして痛みや苦しみを知って」
「優しくなったの、私も驚いたわ」
「そうよね、怪我をして自分の過ちを知る」
 愛の声は遠くを見るものになった、その声で言うのだった。
「それもまた人間ね」
「そうなるのね」
「許されないことをしても」
「人はそこから反省していい人になれるのね」
「そうね、アメリカのその人達といいね」
 愛はアール=ウォーレンやフォレスト大佐の話もした。 
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