イベリス
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第二十九話 報いを受けた人その十
「よくね」
「色々なことがわかったんですね」
「そうよ、怒鳴ったり罵ったりすることがどれだけ人を傷付けるか」
俯いた、そのうえでの言葉だった。
「わかったの」
「その時にですか」
「よくね、そしてね」
「今はですか」
「そうしてきた過去の自分にならない様にして」
何とか少しだけ上を向いて話した。
「歩いていて。人に対しても」
「穏やかにですか」
「接する様にしているの」
「全部変わったんですね」
「そうなったわ」
実際にというのだ。
「私はね、もう二度とあんな風にならないわ」
「怖い人にですか」
「そうならないわ」
「そうですか」
「絶対にね」
「お母さん」
ここでだ、彼女のところにだった。
一人の男の子が来た、小さく優しい顔立ちの黒髪の子だった。その子が女性のところに来て言ってきた。
「もうそろそろね」
「ええ、お家ね」
「だからね」
「立つわ」
「そうしてね」
「あっ、いいわ」
女性はここでだった。
立ち上がろうとしている男の子にだ、優しい笑顔と声で告げた。
「お母さんが立つから」
「一人で?」
「そうするから」
こう言うのだった。
「だからね」
「大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ」
こう言って両手の杖を使って立ち上がる、そしてだった。
男の子にだ、笑顔のまま話した。
「安心してね」
「うん、じゃあね」
「お家に帰ろう」
「そうしましょう。じゃあ小山さん」
立ち上がってだった、咲に顔を向けて言った。
「また機会があれば」
「はい、その時に」
「宜しくね」
「こちらこそお願いします」
咲は女性に笑顔で応えた。
「お元気で」
「小山さんもね」
「先生凄くいいお顔ですよ」
笑顔でだ、咲は女性に話した。
「本当に」
「そうなのね」
「とても穏やかで優しい」
そうしたというのだ。
「いい笑顔です」
「今の私はそうなのね」
「はい、そう思います」
「ならいいけれど。もうね」
「二度とですか」
「昔の私にならないわ」
こう咲に言うのだった、その穏やかな笑顔で。だがよく見ればその穏やかさには後悔が陰をさしていた。
「そうならないわ」
「そうですか」
「お姉ちゃんお母さんのお友達?」
ここでだ、女性の傍にいる男の子が咲に聞いてきた。
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