DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
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強気なリード
前書き
やっぱり野球はいいなぁと思いながらも冬に近付いて外に出なくない欲が勝る今日この頃。
第三者side
「攻守交代は駆け足で。だらしないプレイだけしないように。それじゃあ、始めます」
「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」
中央で一礼し守備に散る少女たちとベンチへと向かう少女たちとで別れる。先に守備に着いた栞里のチームの面々はそれぞれの位置でイニング間の準備を行う。
「7球な」
「はい!!」
真田からボールを受け取りマウンドにいる栞里へと投げる莉愛。彼女はマスクをし構えると、相手が見易いようにミットの芯を向ける。
(構えは様になったな)
その彼女の姿を見て莉子は小さく頷いていた。時間がない中ではあったが、元々やる気があり見よう見まねで練習していたこともあってから、形はどこからどう見てもキャッチャーのそれになっているからだ。
(まぁ、まだまだ直すところはあるがな)
球速が決して速いとは言えない栞里だからこそ問題ない状態ではあるが、今後陽香や優愛といった速球に力がある投手の球を受けた際にミットが流れないか、ランナーが出た時のケアはできているか。キャッチャーが求められるものは多いだけに時間はいくらあっても足りない。
「ボールバック!!」
そんなことを考えていると、規定の投球練習が終わったことで莉子も頭の中を切り替える。最後の投球を終え莉愛が二塁にボールを投じたのを確認し、二、三回バットを振ってから打席へと向かう。
「よろしくな」
「はい!!よろしくお願いします!!」
守備についている後輩に声をかけ、足場を慣らし構えに入る莉子。その彼女に相対した栞里は一つ息をついた。
(まさか一番に莉子を置いてくるなんて)
この試合は紅白戦ということもあって事前のスタメン交換がなかった。そのためポジションは把握しているが、打順がわからない状態で試合に入っている。
(ネクストに紗枝がいる……てっきり三人をクリンナップに置いてくると思ってたから、いきなり莉子は想定してなかったな)
主軸として考えられている陽香、葉月、莉子でクリンナップを構成し大量点を狙ってくると思っていただけにいきなりの強打者にタメ息が出てしまう。
(さてさて……莉愛はどんなボールから入るかな?)
サインを受けるために目の前に座る少女を凝視する。彼女が出されたサインを受けた栞里は驚いた顔をしながら頷いた。莉子はそれを見逃さなかった。
(あいつ……いつも表情を変えるなと言ってるのに……)
顔に出やすい彼女に苛立ちを感じている。投手が表情を変えると球種が読まれる心配もあり、決め打ちをされてしまうケースもある。いつも注意はしているのだが、一向に直らない彼女を見てタメ息が出そうになる。だが、それと同時に瞬時に球種の判別に入っていた。
(あんな顔をするってことは予想してなかったサインのはず。キャッチャーが未経験だから最初はストレートを要求されると思ったんだろ。それで変化球を要求されれば、栞里ならあんな顔をする)
彼女の持ち球はバッテリーを何度も組んでいるため分かっている。その中から初球に持ってくるべき変化球を考えると……
(カウントを取りやすいスライダーだろ。それも、ここは確実に入れてくる)
最初からボール球だと配球の幅が狭くなりやすい。そう考えた莉子は外角のスライダーに狙いを絞る。
(逆らわずに右に流す。そしたらすぐに盗塁して揺さぶりをかけてやる)
セットポジションから足を上げた栞里。球種を読みきったと思っていた莉子は彼女の手からボールが離れたと同時に踏み込むと……
「!!」
身体に向かってきたボールに思わず仰け反る。
「ストライク!!」
「!?」
あわやデッドボールかと思いピッチャーに視線を向けようとした瞬間、球審の声でそちらに視線を向け直す。よく見ると、捕球した位置は内角のストライクゾーン……それも甘いボールと言われてもおかしくない位置にあった。
陽香side
「いきなりインズバは攻めますね、莉愛ちゃん」
ヘルメットを被り準備をしていると、同じくバッティング手袋をはめ始めている葉月がそう声をかけてくる。
「莉子は変化球狙いだったみたいだな。ちゃんと見ていれば甘いボールだった」
栞里はコントロールがいいが、常に完璧なコントロールができる投手はいない。莉子が作り出した先入観により、結果として甘いボールでカウントを取られてしまった形になった。
「でも初球でこれだけ攻めると、次からのボールが難しくないですか?」
「そうだな。内を続けるのか外を見せるのか」
返球を受けた栞里はサインを受けるとすぐにセットポジションに入った。どうやら莉愛の中では、既に攻め方が決まっているらしい。
スリークォーターから離れたボールは外へのストレート。莉子はこれを見送り、ボールの判定。
「外に外れましたかね?」
「振ってくれれば儲けものくらいの感じだったのかもな」
内に意識付けをしてからの外のボール。初球の動きで外に意識が向いていることを利用したんだろうが、莉子は冷静にこれを見送れた。
「ストライク!!」
次はどんなボールを使ってくるかと思っていると、栞里が決め球によく使うフォークボール。外のハーフスピードだったため莉子も手が出たが、これは仕方ない。
「ここでフォークですか?じゃあ次はなんだろ?」
「外に逃げるスライダーだな」
「え?」
キョトンとしている葉月。しかし、これはもうほぼ決まりだろう。先ほど空振りしたボールと同じ程度のスピードのボール。それが真ん中に来たら打者は絶対に手を出す。だが、右投手なら右打者から逃げるようにスライダーを投じれば空振りを奪え難なく三振……恐らくそれが狙いなんだろう。
(初めてのキャッチャーでそこまで考えたのなら大したものだ。莉子?わかっているよな?)
莉子side
(次のボールは恐らく外に逃げていくスライダー。それはわかってる……わかっているが……)
配球は読めていてと、自信を持って見送ることなどできるはずがない。なぜなら、その裏をかかれる可能性だってあるのだから。
(ましてや初めてのキャッチャーなんだ。こちらの想定通りに来るとは思わない方がいいかもしれない)
ここは基本通り、ストレートに照準を合わせながら変化球が来たらカットに行く。それで対応できるようにするしかない。
(予定と大きく変わってしまったが、塁に出れれば問題ない)
当初は初球、外角のストレートで無難に入るだろうと思い一番打者になった。私が出れば次の紗枝に送らせて陽香と葉月で還ってくる。先に先取点を取って主導権を握るつもりが、逆に追い込まれてしまうとは……
そんなことを考えている間に栞里は投球に入る。まるで事前に決めていたかのような早いテンポにこちらも気持ちが早ってしまう。
そんなこちらの心を読み取ったかのように、放たれたボールは真ん中へと入ってくる。
(甘い……いや、これは……)
ハーフスピードの上に甘いボール。この二つの要素が揃ってしまえば打者は反応してしまう。しかし、動き出してから気が付いた。このボールがここから外へ逃げていくことに。
「ストライク!!バッターアウト!!」
空振り三振に倒れたため、ダッシュでベンチへと帰る。ベンチに戻るとネクストに向かう準備を整えた陽香が出迎えた。
「迷ったでしょ?」
「まぁね。初球から裏かかれたし」
あの初球の入りで主導権を握られたことは間違いない。初めての試合であれだけ強気なリードができるとは思ってなかった。
「思ったよりいい試合になるかもね」
「そうだといいがな」
そう言ってネクストに向かう陽香は小さく笑みを浮かべている。試合中にそんな表情を見せることがなかった彼女の姿に、私は呆気に取られてしまうのだった。
後書き
いかがだったでしょうか。
次からは試合のテンポも少しずつ上げていくか、今回みたいに細かく描写するかは未定ですが、やりたいように遊ばせてもらうのでよろしくお願いしますm(__)m
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