業火な御馳走
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2話
幸せな日常
「みんなで一緒にバカンス♪ペットも一緒にバカンス♪」
最近、東宿に出来たばっかりの大型ショピングセンターのCMが流れていた。
そんなCMを朝食を食べながら希は見ていた。
「ねぇ~お母さん、バカンス行こうよ!」
そう言いながら、目をルンルンにさせて美智子の方を見た。
「もう、しょうがないわね」
「やった~!ちょっとまってて食べ終わったらすぐ支度するね!」
そういうと|希は勢いよく口の中にトーストを入れ、コーヒーで流し込んで、ドタバタと2階の自室に向かった。
「今日は久しぶりにお母さんとデートだからこの前買ったら、このワンピースを着ていこうかな♪」
「それより無難にお気に入りのこっちにしようかな?」
希は首を傾げながら、二つのワンピースを持ちながら自室の姿鏡の前で合わせ比べをしていた。
「ん~迷っちゃうな♪」
「そうだ!お母さんに決めて貰おう♪」
希は隣の部屋に顔を少し出しながら母親を呼んだ。
「ねぇ~お母さん」
「何?今着替えてるんだけど…」
「こっちとこっちだったらどっちがいい?」
美智子は目を細めている、老眼が進んでいるのだろうか…
しばらく細い目を左右に動かし見比べしていたが、頷くと左のワンピースを指さした。
「ん~どっちも可愛いけどお母さん的には、こっちの方が青の花柄がとても可愛いし好きだな~」
「やっぱり、私もそう思ってたんだ♪」
「じゃあ、これ来てくるね」
真っ白のハムスターみたいな車に希と美智子は乗った。
それから車の中では、バカンスではこれを見たい、あれを見たいなど話していた。
そうこうするうちに、いかにもハワイをイメージした色と絵が書かれた。ドーム状の建物が現れ、正面には大きくvcanceと書かれていた。
希と美智子はハンドルを握りしめながら、怪訝な顔をしていた。
「やっぱり混んでるね~」
「そうね~」
「もうちょっと速く家を出た方がよかったかもね?」
「そうね~」
希は吹き出して笑った。
「お母さん、先から「そうね~」しか言って無くない?」
「そうね」
「ほら、また言った」
美智子もやってしまったという顔をして、2人は顔を見合わせて笑った。
笑いが落ち着いた頃には、大分進んで立体駐車場まで入ることができたが、どこも満車のマークばっかりでグルグルと立体駐車場を回っていた。
「流石に出来たばっかだからどこも空いてないね…」
美智子と希は空車が無いかキョロキョロしていた。
「そうね」
「お母さん、またそうねって言ってるよ」
「今度言ったらお昼ご飯奢って貰うからね」
「あ、希あったわよ!」
「あ、ほんとだ」
駐車して車を降りた希から突如大きな音が立体駐車場に響き渡った気がした。
「ぐぅ~」
希はお腹を抑えて、顔を真っ赤に染めていた。
「朝ごはん食べてたわよね?」
「…うん」
「もう食いしん坊なんだから…そういう私もお腹すいたんだけどね」
美智子は微笑を浮かべながら希にそう言った。
店内に入ると、心地よい涼しさが身体全体に染み渡った。
「とりあえず、案内図を見てお店とか決めましょう!」
「そうだね!」
そういうと二人は周りを見回して付近にあった案内図に向かった。
「ちなみにお母さんは何食べたいの?」
「私はパスタ食べたいわね!」
「最近食べてなかったからね」
「じゃあ、こことか美味しそうじゃない?」
希が指さした先には、「ボーノパスタ」と店名が書かれ下には料理の写真があり、そこには肉厚なベーコンが絡んであるカルボナーラが写っていた。
「そこにしましょうか!」
ボーノパスタに着くまでに雑貨屋、服屋など魅力的な店があり、寄り道したので店に着く頃には14時過ぎになっていて、店内のお客も落ち着いていた。
「いらっしゃいませ!何名様でしょうか?」
スタイルがよく笑みが素敵な女性店員が出迎えてくれた。
「二名です」
「二名様ですね、お席をご案内致します」
「こちらへどうぞ」
窓際の空いている席に案内してくれた。
二人は席に座ると、希がメニューをとってテーブルに広げ、二人は多種多様な色鮮やかなパスタを見て、ヨダレが落ちそうになっていた。
店員が来て二人の前にお冷を置いた。
「お冷です。ごゆっくりどう…」
店員が喋り終わる前に二人はゴクゴクと飲み干した。
「おかわりください」
店員の顔は静止していたが、少したって笑いを抑えるのが必死の顔をしていた。
「…少々…お待ちください」
それを見て、二人は我に返り顔を赤面させながら、両手で顔を仰いでいた。
「しょうがないわよね…」
「暑かったしね、渋滞してて水分全然取ってなかったからね」
「喉乾いてたことも店内入ったらそんなこと忘れちゃってたし…」
二人は恥ずかしさを紛らわせるように、言い訳を言い合っていた。
そんなことをしている間に、先程の店員がお冷を持って来てくれた。
「お待たせ致しました」
二人は顔を俯かせながら少し頷いた。
「ご注文がお決まり致しましたら、そちらのチャイムですお知らせ下さい」
そういうと店員は厨房と戻っていた。
5分ぐらい二人は黙ってメニューとにらめっこしていた。
「お母さん決まった?」
「私は、牡蠣入りカルボナーラにするわ」
「希は決まったの?」
「うん!私は海鮮パスタにする」
「じゃあ、店員さん呼ぶね」
希はそういうと、チャイムを鳴らしながら願った…どうか違う店員さんが来てくれますようにと。
「お待たせ致しました。ご注文をどうぞ」
二人は胸をなで下ろした。
来た店員は肩幅が広くいかにも野球をやっていそうな、男性店員だった。
「この牡蠣入りカルボナーラと海鮮パスタをお願いします」
それから二人は他愛もない話をしながら料理を食べ、レストランを後にした。
二人が夢中で買い物をしている中、美智子の鞄の中では携帯が振動していた。
これが、二人を絶望へと誘う序章の合図であることは、まだ二人は知らない…
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