アパッチ
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第五章
「うちの店も戦争で焼けたんだよね」
「前の戦争で」
「そうそう、二次大戦で」
大学生の客がこの辺りのことを講義の中で習っていると聞いて話した。店は繁盛していて多くの客がうどんを食べている。
「それでこの店が建つまでは外でやってたんや」
「そうやったんですね」
「闇市の中で」
「この商店街最初は闇市やったんですね」
「そや、幸いここはまだ賑やかやが」
「最近商店街も元気ないですからね」
「駅前だとな、けどな」
それでもというのだ。
「ここはまだな」
「賑やかで」
「うちもやっていけてるわ」
「ええことですね」
「それで戦争の後は」
「空襲でお店が焼けて」
「しかもおうどんもだしも材料も何もなくて」
それでというのだ。
「そこからやったんや」
「何もないとこからのやりなおしですか」
「それで小麦粉とかだしの素材を買うお金もなかったんや」
「大変な時代やったし」
「それで祖父ちゃんと祖母ちゃんは大阪城の方行って」
「あそこにですか」
「それで鉄くず集めて売ってな」
大学生にこのことを話した。
「それでお金手に入れて食い扶持も稼いで」
「そうしてですか」
「うどん屋再建したんや」
「そやったんですか」
「あの辺りは陸軍さんの工場があってな」
「それは僕も聞いてます」
茶髪の大学生はこう返した。
「そやったと」
「それであそこが大阪でも特に空襲受けてな」
「陸軍の工場やったから」
「そえで瓦礫の山になってたさかいな」
「そこで兵器の残骸とかの鉄くず売って」
「それでお金得たんや、よおないことでも」
それでもとだ、哲太は大学生に話した。
「当時は人殺しさえせんかったら」
「ある程度悪いことをしても」
「それでも生きる時代でな」
「そうしたこともしてたんですか」
「そや、それでや」
「鉄くず売ってお金得て」
「貯まった頃に小麦粉のお店もだしの素材のお店も営業再開したし」
「それで、ですか」
「またやれる様になったんや」
「そうでしたか」
「それで今もやってるんや」
店をというのだ。
「そういうことや」
「そうですか、このお店にも歴史があるんですね」
「その通りや」
「成程、お店にも歴史ありですね」
「そうしてお店再建して今に至る、それでも最初はな」
哲太はうどんの麺を茹でつつ話した。
「そうして鉄くず集めて売ってる人達をアパッチって呼んだから」
「アメリカのネイティブみたいですね」
「それでうちのうどんはアパッチうどんとか呼ばれてたんや」
「アパッチうどんですか」
「暫くな、祖父ちゃん達そう言うてたわ」
「それはおもろいですね」
「そやろ、それでこれがうちのうどんや」
哲太は大学生が注文したきつねうどんを出した、大学生は箸を手に取ってそのうどんを食べた。その味は鉄の味はせず関西のうどんの実にいい味がした。
アパッチ 完
2021・8・13
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