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こんな大記録は嫌だ

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第二章

「これで」
「三十五打席目だよ」
「凄いわね」
「一度二軍で調整するらしいな」
「それがいいわね、思いきり振ってるけれど」
 千佳は腕を組んで曇った顔で言う兄に言った。
「バットに当たってないから」
「だからか」
「暫くの間ね」
「二軍で調整した方がいいか」
「バットにボールが当たらないなら仕方ないでしょ」
 こう言うのだった。
「やっぱり」
「そう言われるとね」
「それにここで頭を打った方がね」 
 即ち二軍落ちして挫折を知ってもというのだ。
「いいかもね」
「佐藤選手の将来を考えるとか」
「ルーキーじゃない」 
 彼はというのだ。
「だったらね」
「ここで頭を打ってか」
「それをこやしにしてね」
 そのうえでというのだ。
「また活躍すればいいでしょ」
「そういうものか」
「そうじゃない?まだまだこれからよ」
 クールな表情と声だが兄に告げた。
「だから三十五打席ノーヒットで二軍で調整になってもね」
「落ち込むな、か」
「そう、これをバネにして来年以降もっと凄くなったらどう?」
「一年を通じて打ったらか」
「それでどうかしら」
「そうだな、じゃあこれで落ち込まないことか」
「そういうことよ、巨人キラーになったら嬉しいでしょ」
 自分達が兎角嫌いなこのチームの名前も出した、球界を私物化し悪逆非道の限りを尽くすこのチームの名前を。
「バッター版の」
「それもそうだな」
「じゃあそういうことでね」
「僕は待っていればいいか」
「佐藤選手の成長をね」
「一喜一憂しないでか」
「そういうことよ、まあカープは抑えるからね」
 千佳は兄にこうも言った。
「打線全体を」
「いや、それ昔からだろ」 
 寿は千佳の今の言葉に冷めた顔と声で突っ込み返した。
「何でカープ阪神に滅茶苦茶強いんだ」
「伝統的にね」
「嫌な伝統だな、まあカープならまだ許せるけれどな」
 このチームならというのだ。
「嫌な気持ちになっても」
「怒らないのね」
「巨人じゃないからな」
 だからだというのだ。 
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