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美人の過去

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第一章

                美人の過去
 江藤恵美は美人として知られている。 
 長くセットした黒髪と切れ長できらきらとした大きな瞳を持つ目で顎の形がいい顔と高めの鼻大きめの紅の唇に一六四センチ程の身体でスタイルもいい。胸や腰の形や大きさもいいが脚もかなり奇麗である。
 息子の宗太にとっては自慢の母親である、夫の壮樹とも仲がいい。
 外見だけでなく穏やかで上品な性格でそちらも評判である、しかし。
 ある日夫と共に経営している国道沿いのブティックにある男の客が来て彼女を見て怪訝な顔で言った。
「あれっ、ひょっとして赤城さん?」
「そう言う貴方は加藤君?」 
 その鼻が大きく目の小さい一七〇位のやや色黒で黒髪を真ん中で分けて刈り上げにしている彼を見てだった、恵美も言った。
「加藤憲明君よね」
「そうだけれど」
 彼は恵美に怪訝な顔で答えた。
「ええと、この店で」
「経営してるけれど」 
 恵美は彼に答えた。
「主人と一緒にね」
「そうなんだ」
「ええ、それでどうしてここに」
「いや。ここ今住んでいる家の隣の市で」
 加藤は恵美に店の中を見回しながら答えた。
「ちょっと今日は仕事帰りにね」
「寄ったのね」
「いいもの売ってないかって。ただね」
 加藤は今度は恵美を見て言った。
「赤城さん変わったね」
「それ言う?」
「だってね」
「高校卒業して止めたのよ」
 恵美は加藤にむっとした顔で答えた。
「ああしたことは」
「そうなんだ」
「だからこの通り外見もね」
 これもというのだ。
「今は違うの」
「そうなんだね」
「何を話してるのかな」
 ここで夫が来た、一七七程の背で痩せている。四角い眼鏡をかけた穏やかな顔立ちで黒髪を短くしている。
「一体」
「高校の時のクラスメイトなのよ」
「はじめまして、加藤っていいます」
 加藤は恵美の夫に顔を向けて名乗った。
「今は隣の市に住んでます」
「そうなんですか」
「はい、まさかここで会うなんて」
「奇遇ですね」
「ええ、ただ奥さん変わりましたね」
「あっ、聞いてます」 
 江藤は加藤に笑って応えた。
「妻の高校時代は」
「そうですか」
「はい、やんちゃだったんですよね」
 夫は妻のことを自分から言った。
「本当に」
「ええ、あの時なんて」
 加藤は恵美の過去のことを話した、その時の恵美は。
 髪は金髪にして陸上部の部活のせいで日焼けして真っ黒だった、そして。 
 身体のあちこちにアクセサリーを着けて制服を着崩してスカートは特に短くしていた。クラスでも目立っていて。
 口調もだ、荒れていて。
「おい、何見てんだよ」
「別に見てないよ」
 高校時代の江藤は黒と白のブレザーの制服を真面目に着こなしていた、だが。 
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