レーヴァティン
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第二百二十四話 大雪はその十二
「井伊直弼があの様なことをしてもな」
「話が通るな」
「そして奴は少なくとも自身の考えはあったが」
完璧主義に基づく凝り固まったそれがだ、このまま世に埋もれると思ってその心の慰めで行っていた学問や芸術や禅それに居合で培ったそれ等によって得たもので。
「しかしな」
「悪人だったか」
「悪意あってしていたか」
そこが区分だというのだ、この場合の善人と悪人の。
「それはあった様に思えない」
「彼は独裁者になっていました」
謙二も言ってきた。
「確かに」
「その通りだな」
「しかしです」
「大老としてそうなり」
「ああしたことをしたのは何故か」
「己の私利私欲ではなかった」
「幕府を護る為でした」
先程話した通りにというのだ。
「それ故にです」
「安政の大獄を起こしたが」
「それは幕府を護る為で」
「刑罰を重くしたこともな」
幕府の不文律を破ってだ。
「全てな」
「私利私欲ではなく」
「幕府のことを考えてだ」
「その結果でした」
「奴にとって幕府は絶対のものだった」
彼の家である井伊家は譜代の家でも筆頭格とされるまでに格が高かった、武田家に倣った具足等が全て赤い赤備えがその誇りであった。
「その幕府を護る為にな」
「全てしたことです」
「そして友情も大事にした」
「若い頃のそれを」
「信義を破る男でもなかった」
このこともというのだ。
「そうしたことを見るとな」
「彼はですね」
「悪人ではなかった」
これが英雄の結論だった。
「やはりな」
「そう考えていいですね」
「彼の軍師役だった長野主膳もな」
元々井伊直弼の和歌の師であり彼が藩の跡継ぎになる前からの絆だった、まさに彼の腹心の中の腹心であった。
「同じだな」
「そうかと」
「悪人かというと」
「また違います」
「多くの者を殺し弾圧し」
「策謀も用いましたが」
「悪人かというと」
どうなるかというと。
「やはりな」
「違いますね」
「むしろ善人か」
「善人が道を誤った」
「そうなのだろうな」
「世の中確かに生粋の悪人も存在します」
謙二はこうした輩のことも話した。
「どうにもならないまでの」
「邪悪と言っていい奴もな」
「悪意しか持たない様な」
「どうにもならない奴がな」
「存在しますが」
「井伊直弼はどうだったか」
そして彼の軍師だった長野主膳はというのだ。
「やはりな」
「そうではない」
「そう思えるな」
「左様ですね」
「悪い意味で鑑にすべき奴だが」
このことは事実だがというのだ。
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