レーヴァティン
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第二百二十四話 大雪はその十
「その時はな」
「その通りです」
紅葉も頷いてきた。
「ああしたことをすれば」
「ああなるな」
「人心を失い」
そうなってというのだ。
「その果てはです」
「その通りだな」
「ですから」
それ故にというのだ。
「私達はです」
「あの男は反面教師とすべきだな」
「織田信長さんも悪人に厳しかったですが」
「そうしたことはしなかったな」
「歴史を見る限りでは」
「そうだな、そして江戸時代ではな」
「そうしたことをした人は」
井伊直弼以外はだ。
「いませんでした」
「どういった大老や老中でもな」
「これは幕府の不文律だったので」
徳川幕府は不文律の多い政権であったがこのこともそのうちの一つであったのだ、それで殆どの者が守っていたのだ。
「そうでした」
「それを拡大解釈して破ったのがな」
「その井伊直弼でした」
「そしてその結果だからな」
「やはり同情出来ないですね」
「そして俺も反面教師にしている」
そうしているというのだ。
「実際にな」
「そうですね」
「あれではかえって駄目になる」
「無闇に刑罰を重くしては」
「死罪を増やせばいいというものでもない、ましてや」
英雄はその目を顰めさせて述べた。
「頼三樹三郎も橋本左内も死罪になる程でもなかった」
「幕府を批判していても」
「国を乱すかというと」
それはというのだ。
「そこまではいかなかった、当然吉田松陰もだ」
「この人もですね」
「死罪になる程はな」
それだけのことはというのだ。
「していないとしかだ」
「思えないですね」
「だから評定所も死罪にしなかった」
そこで話をして刑罰を定めていたのだ。
「殆どの者が見てそうだった」
「ただ一人だけですね」
「違っていたが」
その井伊直弼がというのだ。
「それが誤りだったことはな」
「当時から明らかで」
「嫌われ怨みを買い」
刑罰以外にも兎角高圧的な態度で幕臣達の仕事に怒っていた、何もなければ働けであり何かあれば不始末だと言っていたらしい。
「あの結末だ、そしてああなってもだ」
「ほぼ誰にも同情されず」
「今もだ」
まさにというのだ。
「そうなっている、俺は嫌われることは気にしないが」
「あの様なことはですね」
「誤っていると思うからな」
「されないですね」
「そうだ」
こう言うのだった。
「妥当な刑罰を課す」
「それも政であります」
峰夫は印を押しつつ述べた。
「妥当な判決も」
「そうだな」
「ましてあの様に拡大解釈をして重くし」
「死罪を多くしてもな」
「国はよくならないであります」
「事実あの男は幕府の評判を落とした」
「一説によるとその崩壊を早めたであります」
幕府の評判を落としかつ自身が桜田門外で討たれ黒船来航以降落ちていた幕府の権威をさらに落としてである。
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