歪んだ世界の中で
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第十九話 初詣その三
「見ようよ」
「そうだね。それじゃあね」
「もうすぐ来ると思うから」
希望は千春の横に来て駅の向こう側に身体を向けながら述べた。
「だからそれまでの間は」
「待てばいいよね」
「ほんの少しの間だから」
真人は時間に遅れてきはしない。遅れるのなら連絡をしてくる。そうした誠実な人間だとわかっているからこそ言えることだった。
「だからね」
「そうだね。それじゃあね」
「待とうね」
こう言ってだ。そしてだった。
二人は少しだけ、二分程待った。すると。
真人が来た。そしてその横には。
ダークブラウンのフードのあるハーフコートに黒いズボンを着た黒のショートヘアに丸眼鏡の少女が来た。その少女の姿を見てだ。希望は言った。
「確か」
「知ってるの?」
「そう、写真部のね」
誰かとだ。千春に話した。その小柄な少女を見ながら。
「室さんだよ」
「室さんっていうんだ」
「室聡美さん。あの娘だったんだ」
「どのクラスかしら」
「友井君と一緒のクラスの娘だよ」
他ならぬだ。彼と同じクラスの娘だというのだ。
「その娘だよ」
「ふうん、そうなの」
「そうなんだ。名前は確か」
こう言っているとだ。その二人がこちらに来て。
まずは真人からだ。にこりと笑ってこう言ってきた。
「あけましておめでとうございます」
「おめでとうございます」
真人だけでなく彼女からもだ。こう挨拶をしてきた。それを受けれだった。
希望も千春も笑顔でだ。新年の挨拶を返した。
そしてそれからだ。その少女が言ってきた。
「確か遠井希望君と夢野千春さんよね」
「うん、そうだよ」
「宜しくね」
「こちらこそね。私は北野鈴っていうの」
笑顔でだ。彼女は二人に名乗った。
「友井君と一緒のクラスで同じ写真部のね」
「前に会ったことあったかな」
一応同じ写真部だからだ。希望はこう聞いたのである。
「一回か二回」
「ええと。確かお昼休みに部室でね」
「会ったことあったよね」
「そうね。一回ね」
「そういうことがあったよね」
「友井君と一緒だったわよね」
微笑んでだ。その少女鈴は希望に話した。
「その時は」
「確かね。それにしても」
「友井君と一緒のことに驚いたのかしら」
「ちょっとね。意外だったよ」
こう言いながらだ。希望は鈴を見た。そうしてだった。
彼は今度は真人にだ。こう言ったのだった。
「それじゃあ今からね」
「はい、四人で住吉まで行って」
「それで参拝しよう」
こう真人に提案した。最初からそう言う話にはなっているがだ。
「そうしようね」
「ええ。この駅から住吉までは梅田で乗り換えて」
「そうしてそこからね」
「住吉まで、ですね」
八条鉄道ではそういう線のつながりになっているのだ。八条鉄道は日本のあらゆる地域に通じているのだ。
それでだ。神戸の長田区にある八条町から住吉までもだ。梅田で乗換えを経て住吉まで行けるのだ。乗り換えは必要だがそれは一回で済むのだ。
このことを確めてからだ。真人は笑顔で希望に答えた。
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