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歪んだ世界の中で

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第十八話 クリスマスの光その十三

「千春の心にね」
「心になんだ」
「うん、お花が咲いたよ」
 笑みになって。そうしての言葉だった。
「有り難うね」
「心にお花が咲いたんだ」
「そうだよ。心にね」
 千春はまた言った。
「そうしたんだよ。希望がね」
「そうなんだ。僕が千春ちゃんの心に」
「今までもずっとそうだったけれど」
 咲かせてきたというのだ。千春のその心に。
「今日もね」
「花って。心にもだったんだ」
「希望そのことは」
「ううん、前に言った気もするけれど」
 それでもだった。実感としてはだった。
「それがわかったかな。今はっきりとね」
「そうだったんだ」
「千春ちゃん、僕もひょっとしたらね」
「希望も?」
「心にお花が咲いたかな」
 千春を見てだ。笑顔になっての言葉だった。
「そうなってるかな」
「希望もお花咲いたの?」
「そうかもね。それでね」
「お花が咲いてるのならね」 
 それならという前提のうえでだ。千春は希望に尋ねた。
 二人は今は向かい合っている。イルミネーションを背にしてそのうえでだった。
 そうした向かい合いの中からだ。千春は尋ねたのである。
「どんな気持ちかな」
「暖かいね」
 そうだと答える希望だった。
「とてもね」
「暖かい?」
「心のお花ってそうなんだね。咲くと暖かいんだね」
 こう答えていく。
「本当にね。そうなんだね」
「そうだよ。心にお花が咲くとね」
「暖かいんだね」
「そうだよ。じゃあね」
「うん。お花をもっと咲かせよう」
 希望は千春に向けて両手をそっと出した。それから。
 千春のその手を握った。千春もそれに応えて握り返す。イルミネーションの中で笑顔になって。
 二人で一緒にまた歩きはじめようとした。だがここでだった。
 二人の間にあるものが降りてきた。それは。
「あれっ、これは」
「雪よね」
「うん、雪だよね」
「ええ、そうね」 
 二人で周りを見る。その周りに。
 白い雪が静かに降ってきた。それで言うのだった。
「クリスマスだよね」
「うん、クリスマスらしいよね」
 希望は千春の今の言葉にも応えた。
「とてもね。それらしいよね」
「雪。どう?」
「好きになったよ」
 希望はまた言葉を返した。今度は答えた。
「千春ちゃんと一緒にいてね」
「そうなったのね」
「なったよ。じゃあこのままね」
「暫くここにいる?」
「いよう。イルミネーションだけでなくて」
 それに加えてだった。希望はその周りを見ながら千春に話していく。
「雪もね。クリスマス全部をね」
「そうだね。見ようね」
 二人で話してだ。そのうえでだった。
 雪のクリスマス、光の絵の中を歩いて楽しんだ。二人は幸せの絶頂にあった。そしてその幸せが何時までも続いてくればいいと思った。このうえない暖かさを冬の中に感じながら。


第十八話   完


                     2012・5・22 
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